JOURNAL

The 20th Anniversary

20歳の頃 ~20名の大作曲家たちのエピソードをご紹介~

第1回

上野の山を彩る“桜の季節の風物詩”「東京・春・音楽祭」が20回目を迎えます。人間に例えてみれば、20歳は大人の仲間入り。世間一般に“個人”として認められる人生の大きな節目です。クラシックの世界に鑑みてみても、20歳の頃は、過去の偉大な作曲家たちが人生の節目を迎えつつある時期であったことが伺えます。というわけで、第20回を迎える「東京・春・音楽祭」に関連する作曲家たちの中から20人をピックアップして、彼らの「20歳の頃」を紐解いてみたいと思います。若き日の人間味あふれる姿を知ることによって、彼らが遺した音楽の素晴らしさもきっと“20倍”にも膨らむことでしょう。

文・田中 泰

●Vol.1:J.S.バッハ(1685-1750)

〜バッハの青春1人旅〜

“音楽の父”と呼ばれる偉大なるバッハにも、もちろん20歳の頃はありました。時は1705年、ドイツのアルンシュタットで教会オルガニストを務めていた20歳のバッハは、4週間の休暇をとって、リューベックの聖マリア教会オルガニスト、ブクステフーデ(1637?-1707)を訪ねます。ところが勝手に予定を延長して3ヶ月も滞在し続けたことで、勤務先の教会からえらく叱られたようです。しかし、片道約400キロの距離を歩いて体験した高名なブクステフーデの音楽は、その後のバッハに大きな影響を与えます。その成果の1つが、当地で体験したブクステフーデの“アリア《ラ・カプリッチョーザ》と32の変奏曲”のスタイルを踏襲し、調性も同じト長調で書かれた後年の名作《ゴルトベルク変奏曲》です。

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●Vol.2:モーツァルト(1756-1791)

〜波乱万丈の幕開けを告げる〜

“神に愛されし者”アマデウスの20歳の頃は、故郷ザルツブルクの宮廷音楽家として活躍していた時代です。ここでは教会のためのミサ曲のほか、《ハフナー・セレナード》など貴族や市民のための音楽を作曲していました。しかし翌年自由と高収入を求めて宮廷音楽家を辞職。母と2人でマンハイム・パリへと旅立つことにより、波乱万丈の後半生が始まります。20歳の年にあたる1776年に作曲した作品の数は34曲。これは生涯に作曲した作品の約4.5%にあたります。ちなみに、モーツァルトの作品を整理した「ケッヘル番号」を25で割って10を加えると、モーツァルトがその曲を作曲したおおよその年齢が推定できるのだそうです。これはモーツァルトがいかに勤勉かつコンスタントに作曲をしていたのかの証明です。

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●Vol.3:ベートーヴェン(1770-1827)

〜ハイドンとの運命の出会いが道を開く〜

“楽聖”ベートーヴェンの20歳の頃は、まだまだ音楽家として発展途上。ボン国民歌劇場のヴィオラ奏者を努めていた時代にあたります。ここで、モーツァルトやサリエリのオペラに親しんだことは、作曲家として向上するための貴重な体験になったと言われています。反面、父親に代わって家計を支える日々は苦悩の時期であったことも否めません。転機となったのは、イギリス渡航の途中、興行主ザロモンと共にボンに立ち寄ったハイドン(1732-1809)との面会でした。ベートーヴェン自作のカンタータを目にしたハイドンは、その才能を認めます。そしてロンドンからの帰国途上、再びボンを訪れたハイドンは、ウィーンでベートーヴェンを弟子に迎える約束を交わしたのですから素敵です。いつの時代にも出会いは大切ですね。

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●Vol.4:シューベルト(1797-1828)

〜音楽にすべてを捧げた若者の姿がここに〜

“歌曲王”としてその名を知られるシューベルトは、クラシック史上屈指の早熟の天才でした。代表作として知られる歌曲《魔王》の作曲は18歳。そしてその《魔王》が作品1として出版された1821年(24歳)にはすでに700曲に達する作品を手掛けていたことに驚きます。31年の短い生涯に遺した作品数は1000曲あまり。その楽譜を書き写すだけでも31年では不可能だと言われているのですから、まさに音楽が泉のように湧いてきたのでしょう。20歳の頃の生活を紐解いてみても、音楽にそのすべてを捧げた姿が垣間見えます。歌曲だけでも105曲を作曲したほか、ソナチネや《スターバト・マーテル》に《マニフィカート》などを手掛けたこの時期は、まだ健康が蝕まれていないシューベルトの光輝く時と言えそうです。

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田中泰(音楽ジャーナリスト/プロデューサー)

1988年「ぴあ」入社以来一貫してクラシックジャンルを担当。2008年「スプートニク」を設立して独立。「家庭画報web(名曲物語365)」「アプリ版ぴあ(クラシック新発見)」などの連載や、J-WAVE「モーニングクラシック」のナビゲーター、JAL機内クラシックチャンネルの構成などを通じて、一般の人々へのクラシック音楽の普及に尽力。

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