バッハのリュート組曲は4つあるが、第3番、第4番は無伴奏作品からの編曲なので、リュートのために書かれたオリジナル曲は2つ（第何番という番号は後世に付されたものでバッハの企図ではない）。
　リュートの音色を念頭に書かれた第1番は、古典組曲の構成で舞曲が並ぶ。サラバンドとジーグの間に挿入される任意の舞曲には、フランス発祥のテンポの速いブーレが選ばれている。

　本作品の原曲は、ケーテン宮廷楽長時代前半（1720年以前）に書かれたとされる《無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第3番》で、おそらく1735～40年頃、バッハ自身がリュート用に編曲した。全6曲からなり、明るめの印象を持つ舞曲が並ぶ。特に第3曲ガヴォット・アン・ロンドーは、耳馴染みのある有名曲。

　無伴奏チェロ組曲（全6曲）が書かれた年代については、ケーテンの宮廷楽長時代（1717～23年）前期と推定されている。各組曲は「アルマンド／クーラント／サラバンド／ジーグ」の4つの舞曲を定型とし、第1曲に「プレリュード」を、最後のジーグの前の第5曲に「メヌエット／ガヴォット／ブーレ」の中からいずれかの流行舞曲が置かれる。
　組曲 ニ長調は、無伴奏チェロ組曲第1番からの編曲。第1曲プレリュードは、全組曲の中でもっとも有名な曲。第2曲は安らぎのアルマンド、第3曲はイタリア型の急速な3拍子によるクーラント、第4曲は優雅なサラバンド、第5曲には2つのメヌエットが置かれている。第6曲は軽快な短いジーグ。

　無伴奏チェロ組曲第2番からの編曲。第1曲プレリュードは、和声よりも旋律に重点が置かれている。第2曲は高度な技巧を要するアルマンド、第3曲のシンプルなイタリア型クーラントを経て、第4曲は引き伸ばされた旋律に和音が重なる典雅なサラバンド。第5曲に用いられた2つのメヌエットには、どこかしら古風な響きが感じられる。第6曲のフランス風ジーグは、規則正しい8小節の楽節構成。

　無伴奏チェロ組曲第3番からの編曲。第1曲プレリュードは淀みなく流れる16分音符が大きなスケールを感じさせる。第2曲は軽やかな愛らしさを持ったアルマンド。第3曲は音階的な分散和音とスラーで奏されるイタリア型クーラント。第4曲は典型的なサラバンドのリズムに旋律が勝っていく瞬間が美しい。第5曲ブーレは単独で奏される機会も多い佳品。第6曲は掉尾を飾るにふさわしい堂々としたジーグ。