1808年に作曲された作品70は、2つのピアノ三重奏曲からなる。この年は交響曲第5番・第6番が完成しており、ベートーヴェンの創作意欲が横溢していた。3楽章からなり、ソナタ形式の第1楽章アレグロ・ヴィヴァーチェ・エ・コン・ブリオは、いきなり第1主題のユニゾン強奏で始まる。主題後半にふと香る詩情が心を打つ。第2主題は、ヴァイオリンとチェロがユニゾンで音階をなぞり、ピアノがリズムを刻む。第2楽章ラルゴ・アッサイ・エド・エスプレッシーヴォは、展開部のないソナタ形式。一転して幻想的で陰鬱な雰囲気となり、霧の中をさまようような不安定な気分が続く。「幽霊」の呼称は、この楽章の印象からきているとも言われる。そして第3楽章プレストはソナタ形式。それまでの雰囲気を吹き飛ばすような晴れやかな楽章。コーダは弦のピツィカートに始まり、ダイナミックなピアノの躍動感が華やかさを添えて、最後はフォルティッシモで力強く終わる。

　《8つの小品》は、隠居しようとしていた72歳のブルッフの作品。クラリネット奏者だった息子のために書かれたとされる。作曲者によれば、各曲が完結しているため続けて演奏される必要はなく、それぞれが「旋律こそ音楽の魂」としていたブルッフならではの詩情を聴かせる。本日はクラリネット、チェロ、ピアノの編成で4曲を抜粋してお届けする。第1番は葬送曲風に重々しく始まり、憂愁のメロディが奏でられる。第2番は伴奏のテンポは速いが、ゆったりとした旋律線を描く。第5番は「ルーマニアのメロディ」と題されたエキゾチックな曲。第7番は明るいスケルツォで、曲集中唯一の長調作品。

　クラリネット、チェロ、ピアノという特殊な三重奏のために1797年に作曲。3楽章構成で、第1楽章アレグロ・コン・ブリオはソナタ形式。ベートーヴェンならではの力強さと優雅さがあり、ピアノも活躍する。第2楽章アダージョは、シンプルなソナタ形式。冒頭、ピアノ伴奏でチェロが奏でる第1主題は「七重奏曲 op.20」との近似が指摘されている。第3楽章アレグレットは、主題と9つの変奏とコーダからなる。この主題は、巷で評判となっていたヨーゼフ・ヴァイクルのオペラのアリアから採られており、本曲が「街の歌」と呼ばれる所以ともなっている。

　ウィーンの作曲家・指揮者ヴァルター・ラブルの作品1にして代表作とも言えるこの四重奏曲は、ブラームスに献呈された。というのも、本作は1896年に開催されたウィーン・トーンキュンストラー協会主催の作曲コンクールで優勝を果たしたが、当時の協会名誉会長および審査員が他ならぬブラームスだったのである。ブラームスはこの曲を高く評価し、出版社に推薦するほどだった。ただ、20世紀に入るとラブルは作曲家ではなく、指揮者として活動するようになっていった。ラブルの作風はブラームスやシューマンらのロマン主義を受け継いでおり、4楽章構成の本曲も甘美な旋律に満ちている。第1楽章アレグロ・モデラートは冒頭からブラームス後期の作風を想わせる。第2楽章アダージョ・モルトは葬送行進曲風の主題に始まり、主題の変奏へと展開していく。短い間奏曲風の第3楽章アンダンティーノ・ウン・ポコ・モッソを経て、終楽章アレグロ・コン・ブリオは決然とした明るい響きで曲を閉じる。