PROGRAM
プログラム
東京・春・音楽祭
Spring Festival in Tokyo
東京春祭マラソン・コンサート vol.12
Tokyo-HARUSAI Marathon Concert vol.12
Tokyo-HARUSAI Marathon Concert vol.12
音楽・医学・文学
Music, Medicine, Literature
Music, Medicine, Literature
ヨーロッパをつくった3つの響き
3 Echoes Coloring Europe
3 Echoes Coloring Europe
プログラム詳細
Detail
日時・会場
2022年4月3日 [日]
第I部 13:00
第II部 16:00
第III部 19:00
[各回約90分]
企画構成/お話:小宮正安(ヨーロッパ文化史研究家/横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院教授)
【第Ⅰ部】13:00開演(12:30開場)
瀉血されるモーツァルト~医“術”の時代
出演
ヴァイオリン:北見春菜、西野ゆか
ヴィオラ:石田紗樹
チェロ:大友 肇
ソプラノ:藤井玲南
テノール:糸賀修平、山本耕平
ピアノ:石野真穂
グラスハープ:大橋エリ
曲目
モーツァルト:グラスハーモニカのためのアダージョ ハ長調 K.356
C.L.レーリヒ:グラスハーモニカのための小品 より
ハイドン(E.ヴェルンハルト編):歌劇《薬剤師》Hob.XXVIII:3 より(ピアノ伴奏版)
「よし、わかったわかった~ありがたや、おつむが弱くて」
「あなたは自分のお仕事していなさい」
モーツァルト(C.G.ネーフェ編):歌劇《コジ・ファン・トゥッテ》より「女も15になれば」(ピアノ伴奏版)
W.ポール:夢に見る姿
モーツァルト:夢に見る姿 K.530
サリエリ(藤田弘文編):
歌劇《煙突掃除人》より(ピアノ伴奏版)
「高く高く、より高く」
「小鳥たちは歌いめぐり」
「鷲が羽ばたきながら」
モーツァルト(P.リヒテンタール編):《レクイエム》ニ短調 K.626 より(弦楽四重奏版)
「入祭唱」
「キリエ」
「呪われた者を退け」
「涙の日」
【第Ⅱ部】16:00開演(15:30開場)
外科医と旅するブラームス~医“学”の時代
出演
ヴァイオリン:尾池亜美、北見春菜、西野ゆか
ヴィオラ:石田紗樹、中村詩子
チェロ:海野幹雄、大友 肇、森山涼介
ソプラノ:藤井玲南
テノール:糸賀修平
バリトン:吉川健一
ピアノ:石野真穂、佐藤卓史、中野翔太
曲目
ブラームス:弦楽四重奏曲 第1番 op.51-1 より 第1楽章
T.ビルロート:死への憧れ
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲 op.38 より 第6楽章
E.ハンスリック:《若き日の歌》 より「夕映えの湖よ」
ブラームス:《6つの歌》op.6 より「余波」
ローゼッガー:シュタイヤー風レントラー組曲《森のふるさとから》op.21
ホイベルガー:夜想曲 op.7(弦楽六重奏版)
【第Ⅲ部】19:00開演(18:30開場)
自然療法にはまるワーグナー~医“療”の時代
出演
ヴァイオリン:尾池亜美
チェロ:森山涼介
ホルン:日髙 剛
テノール:山本耕平
ピアノ:石野真穂、佐藤卓史、中野翔太
曲目
ワーグナー(H.v.ビューロー編):楽劇《トリスタンとイゾルデ》より 前奏曲(ピアノ4手版)
H.ホフマン:《5つの愛の歌》op.24 より「トリスタンとイゾルデ」
ヨーゼフ・シュトラウス(L.レヒナー編にもとづく):ワルツ《天体の音楽》op.235(ピアノ三重奏版)
ワーグナー(T.ウーリヒ編):歌劇《ローエングリン》より「遠い国」(ピアノ伴奏版)
リスト:舞台神聖祝典劇《パルジファル》 より「聖杯への厳かな行進曲」
マーラー(J.ヴェス編):交響曲 第3番 より 第2楽章(ピアノ4手版)
H.マルシク:ホルンとピアノのためのロマンツェ
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Date/Place
April 3 [Sun.], 2022
Part I at 13:00
Part II at 16:00
Part III at 19:00
[about 90 min.]
Tokyo Bunka Kaikan Recital Hall
Program Planner/Navigator:Masayasu Komiya(Cultural historian of Europe / Professor at Institute of Urban Innovation, Yokohama)
【Part I】at 13:00
I. Mozart Phlebotomized -The Age of Medical “Art”
Cast
Violin:Haruna Kitami, Yuka Nishino
Viola:Saki Ishida
Cello:Hajime Otomo
Soprano:Rena Fujii
Tenor:Shuhei Itoga, Kohei Yamamoto
Piano:Maho Ishino
Glass Harp:Eri Ohashi
Program
Mozart:Adagio für Glasharmonika in C major K.356
Carl Leopold Röllig:Kleine Tonstücke für die Glasharmonika
Haydn(arr. by Eike Wernhard ):”Lo speziale” Hob.XXVIII : 3(Piano Accompaniment Version)
’Eh capisco, capisco’
’A fatti tuoi badar tu puoi’
Mozart(arr. by Christian Gottlob Neefe):”Cosi fan tutte” – ‘Una donna a quindici anni’ (Piano Accompaniment Version)
Wilhelm Pohl:Das Traumbild
Mozart:Das Traumbild K.530
Salieri(arr. by Hirofumi Fujita):”Der Rauchfangkehrer”(Piano Accompaniment Version)
’Fino fino sopra fino’
’Augelletti che intorno cantate’
’Wenn dem Adler das Gefieder’
Mozart(arr. by Peter Lichtenthal):Requiem in D minor K.626(String Quartet Version)
【Part II】at 16:00
II. Brahms Traveling with a Surgeon -The Age of Medical “Study”
Cast
Violin:Ami Oike, Haruna Kitami、Yuka Nishino
Viola:Saki Ishida, Shiiko Nakamura
Cello:Hajime Otomo, Mikio Unno, Ryosuke Moriyama
Soprano:Rena Fujii
Tenor:Shuhei Itoga
Baritone:Kenichi Yoshikawa
Piano:Maho Ishino, Takashi Sato, Shota Nakano
Program
Brahms:String Quartet No.1 op.51-1 – I
Theodor Billroth:Todessehnsucht
Beethoven:Piano Trio op.38 – VI
Eduard Hanslick:O See im Abendstrahl(”Lieder aus der Jugendzeit”)
Brahms : Nachwirkung(”6 Lieder” op.6)
Sepp Rosegger:Eine steirische Ländler-Suite(”Aus der Waldheimat” op.21)
Richard Heuberger:Nachtmusik op.7(String Sextet Version
【Part III】at 19:00
III. Wagner Addicted to Natural Healing -The Age of Medical “Treatment”
Cast
Violin:Ami Oike
Cello:Ryosuke Moriyama
Horn:Takeshi Hidaka
Teonr:Kohei Yamamoto
Piano:Maho Ishino, Takashi Sato, Shota Nakano
Program
Wagner(arr. by Hans von Bulow):”Tristan und Isolde” – Prelude(Version for Piano 4 Hands)
Heinrich Hofmann:Tristan und Isolde(”5 Minnelieder” op.24)
Josef Strauss(after arr. by Lothar Lechnar):Walzer “Sphärenklänge” op.235(Piano Trio Version)
Wagner(arr. by Theodor Uhlig):”Lohengrin” – ‘In fernem Land’(Piano Accompaniment Version)
Liszt : Feierlicher Marsch zum heiligen Gral(”Parsifal”)
Mahler(arr. by Josef Wöss):Symphony No.3 – II(Version for Piano 4 Hands)
Hermann Marschik:Romanze für Horn und Klavier
チケット情報
Ticket
料金(税込)
3公演通し券 | 各回券 | U-25(各回) | ライブ・ストリーミング配信 |
---|---|---|---|
¥8,500 | ¥4,000 | ¥1,500 | ¥1,100 |
※来場チケットは全席指定
Price(tax included)
3 Concerts | 1 Concert | U-25 | Live streaming |
---|---|---|---|
¥8,500 | ¥4,000 | ¥1,500 | ¥1,100 |
※All admission tickets are reserved seat.
来場チケット
※先行発売はございません。
- 全席指定(3公演通し券・各回券)
- 2022年1月30日[日]10:00
- U-25
- 2022年2月17日[木]12:00
ご購入にあたって
必ず、「新型コロナウイルス感染拡大予防への取組みとお客様へのお願い」をお読みいただき、内容をご確認・ご同意いただいた上でチケットをお申込みください。
基礎疾患(糖尿病・心不全・呼吸器疾患等)をお持ちの方や妊娠中の方、その他体調に不安のある方は、医師の判断や関係機関の情報をご確認の上、慎重なご判断をお願いいたします。
ネット席
- 2022年3月1日[火]12:00
ご購入にあたって
ライブ配信のみとなります。会場で開催する公演と同時刻に、ご自身のPC・スマホ・タブレット画面にてご鑑賞いただけます。公演終了後のアーカイブ配信はございません。
Admission ticket
- All-reserved seat(3 Concerts・1 Concert)
- January 30 [Sun.], 2022 at 10:00
- U-25
- February 17 [Thu.], 2022 at 12:00
Before buying ticket
Before you reserve your ticket of Spring Festival in Tokyo 2022, please make sure to read through and understand the “Coronavirus Prevention Measures and Visitor Rules”.
If you have an underlying condition or are pregnant, be extra cautious about your decision to come, taking into consideration the advice of your doctor and information from relevant institutions.
Please check the latest information on our official website and SNS before coming to the concert.
Streaming ticket
- March 1 [Tue.], 2022 at 12:00
Before buying ticket
Only Live-Streaming is available. You can enjoy the concert through your devices (e.g. computer). There is no archive streaming.
曲目解説
Song Commentary
曲目解説PDFダウンロード小宮正安
第1部 瀉血されるモーツァルト~医“術”の時代
第1部では、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-91)やヨーゼフ・ハイドン(1732-1809)が活躍した18世紀後半のウィーンを中心に、近代医学の誕生前夜、医学が医“術”としての要素を濃厚に備えていた時代を追う。
医学の世界において、「術」を重んじる前近代的要素の中に、「学」を重視する近代的要素が混ざり始めるという状況。それは、18世紀後半の特徴でもある実験精神の目覚めとも相まって、様々な発明品を生み出した。その一つがグラスハーモニカである。この音を聞くと、視覚障害や体調不良が治るという触れ込みが出た一方で、精神に変調をきたすという噂も流れ、19世紀には廃れてしまった。ただしその神秘的かつ未曾有の響きには、多くの作曲家が魅了されている。モーツァルトが最晩年の1791年に作曲した《グラスハーモニカのためのアダージョ ハ長調》しかり、彼と同時代人のカール・レオポルト・レーリヒ(1754頃-1804)が1789年に出版した《グラスハーモニカのための小品》しかり。後者は曲集の形をとっており、本日はその中から2曲を取り上げる。
ヨーロッパの古い薬局に行くと、現在でも天井からワニの剥製がぶら下がっていたり、背後の壁に年代物の薬壺がずらりと並べられていたりする。これは薬局……またその主である薬剤師が、医術全盛の時代には患者の治療に関して大きな力を持っており、迷信に基づく薬も多数扱っていたことの証。そんな状況が徐々に崩れつつあった18世紀後半、自分の力を過信し、若い娘にちょっかいを出す薬剤師を描いた喜劇的な歌劇が、1768年に初演されたハイドンの歌劇《薬剤師》だ。なおこの作品に登場する印象的な旋律を、ハイドンの若き友であったモーツァルトは、1790年に初演された歌劇《コジ・ファン・トゥッテ》の「女も15になれば」に採り入れている。
ヴィルヘルム・ポール(1759-1807頃)も、こうした変化の時代を生きた医師であると同時に、音楽愛好家として優れた作品を発表している。そんな彼が作った歌曲の一つが、1800年に出版された《夢に見る姿》。同時代の詩人ルートヴィヒ・ヘルティ(1748-76)の詩を基にしており、同じ詩人と題名でありながら、これとは別の詩に対し、モーツァルトも1787年に曲をつけている。
モーツァルトといえば、ウィーンの宮廷オペラでドイツ語による――さらには当時力を伸ばしつつあった市民階級を念頭に置いた――歌劇を上演しようという動きに応え、《後宮からの誘拐》を作ったことで有名だ。だがそれに先立ち、後世から彼の不倶戴天の敵という濡れ衣を着せられることとなったアントニオ・サリエリ(1750-1825)も、このジャンルの作品を作っている。それこそが、1781年に初演された歌劇《煙突掃除人》。しかもその台本を書いたのは、打診法も発明した医師であるとともに、音楽や文学にも造詣の深かったレオポルト・アウエンブルッガー(1722-1809)という人物である。意中の人と結婚したいと願う煙突掃除人が巻き起こす、ドタバタコメディだ。
医術と医学が混然としていた当時、瀉血のし過ぎが直接の死因となったともいわれるモーツァルト。その彼が1791年に取り組むものの未完のまま残すこととなった《レクイエム》を、家庭でも体験できるよう弦楽四重奏用に編曲したのが、ペーター・リヒテンタール(1778-1853)だ。彼もまた医学を修めるかたわら、音楽にも造詣の深かった人物で、健康上の理由で後年移住したミラノでは、モーツァルトの息子の一人、カール・トーマス・モーツァルト(1784-1858)とも親交を結んだ。そんな交友の中から生まれたのが、本日その一部が演奏される《レクイエム》の弦楽四重奏版なのである。
第2部 外科医と旅するブラームス~医“学”の時代
第2部では、ルートヴィヒ・ファン・ベートーヴェン(1770-1827)や壮年期のヨハネス・ブラームス(1833-97)が活躍した19世紀前半から半ばにかけてのウィーンを中心に、近代医学が整えられ、「正統医学」として確立されていった時代を追う。
19世紀の西洋音楽の潮流は「ロマン派」という概念で括られるが、その代表的な存在として挙げられるのがブラームスだ。たしかに、1873年に完成された《弦楽四重奏曲 第1番》にもそうした要素が溢れており、激情と憂愁が交差する内容は、劇的な感情の表出という点でいかにもロマン派らしい。ただしブラームスの場合、ベートーヴェンを偉大な先達として尊敬し、彼の作品が体現する均整の取れた古典派的要素を重視していた点も重要だ。まただからこそ、ベートーヴェンの真似事に終わらない創作のあり方を求め、多くの作品と同様に、この曲も完成まで8年もの歳月を要することとなるのだが……。
この《弦楽四重奏曲 第1番》(さらには同時期に完成された第2番)を献呈されたのが、外科医として近代医学の一翼を担った、テオドール・ビルロート(1829-94)だ。この出来事にも見られるように、彼はブラームスと非常に懇意にしており、一緒に旅行もする仲だったが、それもこれもビルロートが音楽にもきわめて深い造詣を有していたからに他ならない。そんな彼の音楽的才能を示すのが、1885年に出版された歌曲《死への憧れ》。ゲオルク・ヘルヴェーク(1817-75)というロマン派の詩人の詩に基づいており、外科医として生と死に立ち会い続けた医師が、その死生観を音楽によって吐露した1曲となっている。
ブラームスの尊敬の対象であったベートーヴェンは、30歳を迎えた1800年に、弦楽器と管楽器のための《七重奏曲》を完成させる。この曲が好評を得ると、家庭でおこなわれる室内楽の場でも楽しんでもらうべく、1802から03年頃にピアノ三重奏曲用に編曲し、ヨハン・アダム・シュミット(1759-1809)という人物に献呈する。シュミットは高名な医師であり、耳の病に苦しむベートーヴェンの治療をおこなうと同時に、優れた音楽愛好家だったことから、この曲を献呈される運びとなった。
ブラームスをドイツ音楽の立役者として高く評価し、ビルロートとも懇意にしていたのが、音楽評論家として有名なエドゥアルト・ハンスリック(1825-1904)。彼は、青春時代に作曲した歌曲をまとめ、《若き日の歌》というタイトルで1882年に出版するが、その中に収められた1曲が「夕映えの湖よ」だ。テキストを書いたのは、同世代の詩人であるアルフレード・マイスナー(1822-85)であり、彼は医学を修めたという経歴も相まって、医学や自然科学の用語を用いながらロマン派的な世界観を描く独特の作品を数多く残した。また、若き日のブラームスが1852年から53年にかけて作曲した《6つの歌》にも「余波」という独特のタイトルを持つマイスナーの詩を基にした曲が収められている。
ゼップ・ローゼッガー(1874-1948)も、医師であり作曲家として活躍した人物。彼の父親のペーター・ローゼッガー(1843-1918)は、文筆家として有名であると同時に、オーストリア南東部のシュタイヤーマルク地方の民謡の採集にも熱意を燃やした。そうした父親からの影響もあって、1944年に出版されたのが、ピアノ連弾のための『シュタイヤー風レントラー組曲《森のふるさとから》』である。
そして、ゼップの父親であったペーターとともにシュタイヤーマルク地方の民謡を採集したのが、リヒャルト・ホイベルガー(1850-1914)だ。喜歌劇の作曲家として名を残している彼は、若い頃にはいわゆるクラシック音楽の正統派の作曲家として、ブラームスに象徴される保守的な流れに属する存在と見られていた。そんな彼が1877年に作曲した弦楽六重奏/弦楽合奏用の作品が《夜想曲》である。
第3部 自然療法にはまるワーグナー~医“療”の時代
第3部では、リヒャルト・ワーグナー(1813-83)やグスタフ・マーラー(1860-1911)が活躍した19世紀後半から20世紀にかけてのウィーンを中心に、自然療法をはじめとする「医療」が、近代医学と並ぶもう一つの「医」の在り方を確立していった時代を追う。
その象徴的な人物こそ、ワーグナーだ。69歳と当時としては長命を得ただけでなく、旺盛な創作力や生命力でつとに有名な彼だが、実は生涯にわたり様々な疾患に苦しんだ。そうした中でワーグナーは、近代医学とは異なるアプローチによって病や健康を捉える自然療法に目覚めてゆくのだが、折しもそうした最中の1854年に着想を得て、1857年から59年にかけて手掛けたのが、媚薬をテーマとした中世の恋愛物語を基にした楽劇《トリスタンとイゾルデ》だ。しかも題材自体は古いものでありながら、音楽はきわめて斬新であり、「前奏曲」の冒頭に現れる憧れと焦燥を宿した和音(いわゆる「トリスタン和音」)は、その典型である。
なお、近代科学の視点から見れば荒唐無稽にさえ思えるこの物語に共感したのは、ワーグナーだけでない。ハインリヒ・ホフマン(1842-1902)が、中世の宮廷に花咲いた恋愛歌の同時代訳(原作者は12世紀の詩人ハインリヒ・フォン・ヴェルデケ、訳者はハインリヒ・シュトロック〈1829-1905〉)に音楽を付け、1875年に出版した《5つの愛の歌》にも《トリスタンとイゾルデ》が登場する。
こうした動きの背景には、近代医学全盛の時代にあって、それがどうしてもカバーしきれない領域に、人々の関心が向かい始めていたことが考えられる。ヨーゼフ・シュトラウス(1827-70)のワルツ《天体の音楽》もその一つだ。1863年に催された「医学舞踏会」のために書かれたものだが、この時の舞踏会のテーマが「天球の音楽」。宇宙の調和が、人体の調和や音楽の調和と共鳴するという古代ギリシア以来の考え方に、近代医学を奉じる人々が関心を抱いていた点が興味深い。
ワーグナーを自然療法へ向かわせた一人が、テオドール・ウーリヒ(1822-53)という人物だ。ワーグナー同様に幅広い分野に才能を発揮し、作曲や演奏、さらには音楽批評や思想活動もおこなった彼から、当時ドイツ語圏で徐々に広まりつつあった水治療を勧められたのがきっかけだった。さらに、ワーグナーの盟友であり、後年彼の義父となるフランツ・リスト(1811-86)が、この頃ドイツ語圏で広まりつつあった動物愛護に深い関心を示したことも、ワーグナーに自然との関係の中で人間の健康や医療というものを見つめさせることとなった。そんな両者の関係を象徴する作品の一つが、1882年に初演されたワーグナー最後の作品、舞台神聖祝典劇《パルジファル》に登場する聖杯城への行進を、自由にアレンジしたリストのピアノ曲「聖杯への厳かな行進」だ。
自然への共感ということでは、ワーグナーから大きな影響を受けたマーラーも例外ではない。彼が1895年から96年にかけて作曲した《交響曲 第3番》は、雄大な自然と、それを前にした人間存在のあり方が一つのテーマとなっている。元々この曲の各楽章には標題が付けられていたが(後に削除)、本日取り上げる第2楽章のそれは「野原の花々が私に語ること」。長閑な曲想の中に突如現れる残酷さや恐怖が人間につきつける問い。
マーラーは、精神科医であり心理学者のジークムント・フロイト(1856-1939)をはじめ、世紀転換期のウィーンで活躍した、新時代の医の従事者と交流した。そうした動きの中で学んだ一人が、やがて咽頭科学の分野で活躍するとともに、作曲や演奏の分野にも大きな功績を残したヘルマン・マルシク(1878-1969)だ。彼が作った《ホルンとピアノのためのロマンツェ》は、作曲や初演の年こそ不明だが、1925年にウィーンの王宮で時のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の首席ホルン奏者だったカール・シュティーグラー(1876-1932)によって演奏されるほど、優れた評価を受けた1曲である。
主催:東京・春・音楽祭実行委員会
協力:Dr. Dr. h.c. Otto Biba
Organizer:Spring Festival in Tokyo Executive Committee
Co-operation:Dr. Dr. h.c. Otto Biba
- ※政府や自治体によるイベント開催要件に変更があった場合は、開演時間の変更や、販売枚数の追加または販売の一時停止、入場者数上限の変更等を行います。
- ※今後の新型コロナウイルス感染症拡大状況によっては、公演内容や実施方法を変更、または公演を中止する可能性がございます。最新情報は当公式サイトやSNSにてご確認ください。
- ※掲載の曲目は当日の演奏順とは異なる可能性がございます。
- ※未就学児のご入場はご遠慮いただいております。
- ※ご来場の際、車椅子をご利用のお客様は東京・春・音楽祭実行委員会(03-5205-6497)までお問合せください。
- ※チケット代金お支払い後における、お客様の都合による変更・キャンセルは承りません。
- ※やむを得ぬ事情により内容に変更が生じる可能性がございますが、出演者・曲目変更による払い戻しは致しませんので、あらかじめご了承願います。
- ※チケット金額はすべて消費税込みの価格を表示しています。
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- * Capacity limitation, suspension of ticket sales, and a change in the performance’s start time could occur if the guidelines are changed by the government or local authorities.
- * The plan and the way of implementation are subject to change, or the concerts are subject to be canceled due to the affection of the coronavirus. Please check the latest information on our official website and SNS.
- * Program order is subject to change.
- * Preschool-aged children are not admitted to entry.
- * Please contact in advance if you use a wheelchair.
- * Any changes or cancellations of tickets for the reason of the purchaser after payment would not be accepted.
- * Any changes or cancellations of tickets would not be acceptable even if programs and artists changed.
- * Ticket prices are inclusive of tax.
- * Any resales with a profit objective are strictly prohibited. We don’t take responsibility for any trouble caused by illegal resales.