JOURNAL

プッチーニ集
2025/01/15

耳で聴く「蝶々夫人」名盤紹介

文・石戸谷結子

〇「蝶々夫人」8つの必聴ポイント

 2024年はプッチーニの死後100年。世界中で「蝶々夫人」が上演された。何度聴いても、音楽は流麗で優美、かつ甘美で、蝶々さんの哀しい物語は胸を打つ。全編が聴きどころだが、あえて8つの必聴ポイントを紹介。
その1
1幕「世界中どこでも」 ピンカートンが得意げに”世界の美女をものにする”と歌う能天気なアリア。ここでテノールの資質が明らかになる。アメリカ国歌が効果的に響く。
その2
「美しい大空」蝶々さん登場の場面。坂の下からふわりと雲のように響いてくる女声合唱。蝶々さんの声がひときわ高らかに響く。最後の高音が美しく響いて欲しい。
その3
二重唱「愛らしい目をした魅力的な乙女よ」幕切れの美しい愛の二重唱。瞬く星空のもと、愛を語り合う二人。
その4
第2幕「ある晴れた日に」このオペラ最大の聴きどころ。蝶々さんは、夢見るように歌い出し、自分の幻想をうっとりと語る。
その5
「私に残された二つの道」 シャープレスに、”もしピンカートンが帰らなかったら?”と聞かれた蝶々さんは、芸者に戻るくらいなら死ぬと、悲痛な決意を語るシーン。
その6
「花の二重唱」 ピンカートンの船が港に着いたと知って、蝶々さんとスズキは部屋に花を撒いて喜びを歌う。
その7
第3幕 「さらば愛の家よ」 ブレシアで改訂版が上演された時に付け加えられたピンカートンのアリア。軽薄なピンカートンの懺悔の気持ちが歌われる。
その8
「さようなら、坊や」 死を決意した蝶々さんが、かわいい坊やを抱きながら歌う悲痛なアリア。蝶々さんの聴かせどころ。


〇耳で聴く「蝶々夫人」名盤紹介

🌟圧倒的な不朽の名盤 マリア・カラス
1955年録音
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 スカラ座管弦楽団
蝶々さん・・・マリア・カラス、ピンカートン・・・ニコライ・ゲッダ、シャープレス・・・マリオ・ボリエルロ

 スタジオ録音盤。その後の蝶々さんを歌う歌手の規範となった、圧倒的名演。1幕は15歳の蝶々さんを演じ、ちょっとカマトトの感じがするのだが、2幕以降は凛とした強さのある緊迫した表現がみごと。全幕の幕切れ、短刀の銘を読む場面から「さようなら坊や」の悲痛な独白は、涙なしには聴けないドラマチックな歌唱。ゲッダのピンカートンも美声で甘い表現。カラヤンの指揮も覇気に満ち、旋律を流麗に響かせている。
レーベル:ワーナーミュージック・ジャパン(旧EMI)

🌟カレーラスとフレーニの共演
1988年録音
ジュゼッペ・シノーポリ指揮 フィルハーモニア管弦楽団
蝶々さん・・・ミレッラ・フレーニ、ピンカートン・・・ホセ・カレーラス、スズキ・・・テレサ・ベルガンサ、シャープレス・・・ホアン・ポンス

 キャリアの後半になって、蝶々さんを歌い始めたフレーニの声が美しく、澄んだ声が瑞々しい。そしてこの時、41歳のカレーラスのピンカートンが最高! 他のどのテノールよりも若々しく、高音が甘く輝いている。カレーラスの絶好調時の録音。愛の二重唱もゆったり目のテンポで、抒情的なシーンが繰り広げられる。シノーポリの指揮もプッチーニの弧を描くような旋律線を抒情的に表現していてみごと。このディスクもカラス盤と並び、後世に残る圧倒的な名演だ。スズキ役がベルガンサという贅沢なキャストにも注目。
レーベル:ドイツ・グラモフォン

🌟カウフマンとゲオルギューの共演
2009年録音
アントニオ・パッパーノ指揮 ローマ、サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団
蝶々さん・・・アンジェラ・ゲオルギュー、ピンカートン・・・ヨナス・カウフマン、シャープレス・・・ファビオ・カピタヌッチ

 プッチーニ生誕150年の記念録音。プッチーニを得意とするパッパーノの指揮は、旋律を充分に歌わせていて、明るくイタリア的。ピンカートンを歌うカウフマンは、軽薄なヤンキーというより、品位のある精悍な海軍中尉という感じがする。「世界中どこでも」のアリアは、力強いドラマチックな歌い方だ。ゲオルギューの蝶々さんは、のびやかな声と巧みな歌いまわしで1幕は可憐な蝶々さんを、2幕では母としての強さを表現している。彼女が得意とする繊細な表現力とドラマチックな表現が発揮された、素晴らしい歌唱だ。
レーベル:ワーナーミュージック・ジャパン(旧EMI)

〇映像にもぜひご注目!!

🌟来日するゲレーロがピンカートン!
2024年3月公演のライブ録音
ケヴィン・ジョン・エドゥセイ指揮 コヴェントガーデン王立歌劇場管弦楽団 モッシュ・ライザー&パトリス・コーリエ演出
  蝶々さん・・・アスミク・グリゴリアン、ピンカートン・・・ジョシュア・ゲレーロ、シャープレス・・・ラウリ・ヴァサル、スズキ・・ホンニー・ウー

 いま最高の蝶々さんといわれるグリゴリアンと共演してピンカートンを歌っているゲレーロは、4月に東京・春・音楽祭の《蝶々夫人》に出演する話題のテノール。ロイヤル・オペラの他、ウィーン国立歌劇場やパリ・オペラ座でも活躍する世界が注目する美声テノールで、背も高くとてもハンサムでリリックな声の持ち主。演技も巧く、ちょっと軽薄なモテ男ピンカートンを好演している。彼は2018年にグラインドボーン音楽祭でもピンカートンを歌っていて、これも映像になっているが、やはり昨年3月のロイヤル・オペラ盤が素晴らしい。グリゴリアンは、ピアニッシモから強い表現までむらのない、弧を描くような旋律線を歌う。凛とした表現もみごと。
レーベル:ナクソス ジャパン
※当初出演を予定しておりましたピンカートン役(テノール)のジョシュア・ゲレーロは都合により出演ができなくなりました。代わりまして、ピエロ・プレッティが出演いたします。詳細はこちら

🌟映像では歴史的な超名盤、豪華キャスト
1974年録音・録画
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ウィーン・フィル ジャン・ピエール・ポネル演出
蝶々さん・・・ミレッラ・フレーニ、ピンカートン・・・プラシド・ドミンゴ、シャープレス・・・ロバート・カーンズ、スズキ・・・クリスタ・ルードヴィヒ

 いまから50年前の録音だが、いまもこれ以上の映像は出ていないかも知れない。キャストも超豪華。Tシャツを着た軽薄なピンカートンを演じるドミンゴは、当時33歳! カラヤンの優雅で甘美な演奏、フレーニのまさにベルカントの極致ともいえる歌唱に感動。
レーベル:ドイツ・グラモフォン

〇番外編 日本人の蝶々さんによる2つの映像

🌟東敦子さん、1973年東京文化会館
ウィーン国立歌劇場、メトロポリタン歌劇場、バイエルン国立歌劇場など世界の一流歌劇場で活躍した東敦子(1936年生まれ)。海外で大成功した凱旋公演として企画された舞台が映像化されている。指揮はアルジョ・クワドリ、演出は青山圭男という日本を代表する伝統的な舞台。ピンカートンにルチアーノ・サルダーリを迎えた、東敦子の絶頂期の貴重な記録。
レーベル:NBS

🌟林康子さん、1986年ミラノ・スカラ座
林康子(1943年生まれ)、彼女もまた世界の一流歌劇場で蝶々夫人を歌って名声を博したソプラノ。日本人では唯一、スカラ座で蝶々さんを歌った。指揮はロリン・マゼール、演出は浅利慶太、衣装は森英恵という日本人による舞台が話題を呼んだ。その貴重な舞台の映像が残されている。
レーベル:パイオニア・レーザーディスク

関連公演

東京春祭プッチーニ・シリーズ vol.6
《蝶々夫人》(演奏会形式)

日時・会場

2025年4月10日 [木] 15:00開演(14:00開場)
2025年4月13日 [日] 15:00開演(14:00開場)
東京文化会館 大ホール

出演

指揮:オクサーナ・リーニフ
蝶々夫人(ソプラノ):ラナ・コス
ピンカートン(テノール):ピエロ・プレッティ
シャープレス(バリトン):甲斐栄次郎
スズキ(メゾ・ソプラノ):清水華澄
ゴロー(テノール):糸賀修平
ボンゾ(バス・バリトン):三戸大久
ヤマドリ(バス・バリトン):畠山 茂
ケート(ソプラノ):田崎美香
管弦楽:読売日本交響楽団
合唱:東京オペラシンガーズ
合唱指揮:仲田淳也
※当初出演を予定しておりましたピンカートン役(テノール)のジョシュア・ゲレーロは都合により出演ができなくなりました。代わりまして、ピエロ・プレッティが出演いたします。詳細はこちら

 

曲目

プッチーニ:歌劇《蝶々夫人》(全2幕/イタリア語上演・日本語字幕付)
上演時間:約3時間(休憩含む)

チケット料金

S:¥24,500 A:¥20,500 B:¥16,500 C:¥13,000 D:¥9,500 E:¥6,500
U-25:¥3,000


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