原曲は、全調性を網羅した24の曲を5度循環で並べたピアノ作品で、1932～33年に短期間で作曲された。1曲ごとに非常に性格的で、初期ショスタコーヴィチの様々な傾向を示す実例集とも言える。
　ヴァイオリンとピアノ版への編曲を行なったのは、ベートーヴェン弦楽四重奏団の第1ヴァイオリン奏者だったドミートリー・ツィガーノフで、原曲24曲のうち19曲を編曲した。そして、残りの5曲（第4、7、9、14、23曲）を、ロシアのピアノ奏者レーラ・アウエルバッハが2000年に編曲して、全曲完成となった。

　ショスタコーヴィチとも親交があった音楽評論家ソレルチンスキーが第二次世界大戦中の1944年2月、疎開先で急逝した。その死に際して、ショスタコーヴィチは当時構想していたピアノ三重奏曲を今一度練り直し、亡友の追憶に捧げることにした。
　全4楽章からなり、第1楽章は、弱音器をつけたチェロがハーモニクスで静かに鎮魂歌をうたい始める。やがてモデラートに移ると、次第に熱を帯びていく。第2楽章は、ロンド形式の烈しいスケルツォ。パッサカリアによる第3楽章は、コラール風の和音の連なりが6回繰り返されるなかで、ヴァイオリンとチェロが悲痛な旋律を奏する。切れ目なく続く第4楽章は、ヴァイオリンのピチカートによる第1主題が不穏な雰囲気を漂わせ、続いてピアノで力強く奏される舞曲風の第2主題はユダヤ的な旋律で、どこかグロテスクな色調さえ帯びている。最後は先行楽章からの引用も織り込んで、静かに曲を閉じる。

　本曲は、15を数える弦楽四重奏曲と並んで、ショスタコーヴィチの室内楽の中でも重要かつ演奏機会も多い。作曲は1940年で、翌年「スターリン賞」を受賞した（この事実から「社会主義リアリズム」を体現した作品として語られることが多かったが、当然、そういった範疇に組み込まれるほど単純な曲ではない）。
　全5楽章構成。重厚なピアノの打鍵で開始されるプレリュードの第1楽章と、民謡を取り入れた第2楽章のフーガは、悲劇的でもあり風刺的でもある。第3楽章スケルツォを挟んで、間奏曲（インテルメッツォ）の第4楽章、そして第5楽章フィナーレへと至る後半部では、古典的均衡と（表面的には親しみやすい）楽想に込められたショスタコーヴィチのアンビバレントな想いが展開されるが、最後はどこか吹っ切れたように、軽妙かつ穏やかな終曲をむかえる。