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続・ふじみダイアリー 今日のハルサイ事務局

東京・春・音楽祭2022 閉幕! 

東京・春・音楽祭2022 閉幕!


 東京・春・音楽祭2022が閉幕して1ヶ月。事務局にはようやく落ち着いた日常が戻りつつあります。いくつかの中止公演はありましたが、水際対策の緩和もあってほとんどの海外演奏家の皆さんも無事に公演を行なうことができました。感染状況はまだまだ楽観できませんが、コロナ前の音楽祭の形が少しずつ戻ってきたことを、あらためてうれしく噛み締めています。

3/18開幕公演でのリッカルド・ムーティ冒頭挨拶 ©︎平舘 平

 3月18日(金)に「リッカルド・ムーティ指揮 東京春祭オーケストラ」で幕を開けたのが、遠い日のことのような気がします。
 開幕公演。演奏に先立ち、マエストロ・ムーティはウクライナ情勢に鑑みて、客席に静かに語りかけました。
「世界の劇的な状況のなかで音楽を演奏することは、われわれや、とくに若い音楽家にとって非常に困難なことです。……」
 スピーチはマエストロご自身の発案でした。現在の状況に、音楽祭としてどう対応すべきか悩んでいた私たちは、マエストロに率直にご相談したのです。マエストロは、「では私がステージからメッセージを伝えよう」とおっしゃってくれました。人生の大先輩の提案に救われた気がしました。音楽がすべてを好転させられるわけではないですが、音楽を聴くこと、演奏することによって救われる健全な精神もあると信じています。

さまざまな「出会い」も戻ってきました!
 今年あらためて強く実感したのは「出会い」です。
 東京・春・音楽祭は、アーティストのみなさんの出会い・再会の場でもあります。別公演に出演する海外の演奏家同士が、東京文化会館の舞台裏でばったり出会うという光景が珍しくありません。昨年、一昨年はコロナ禍で見られなくなっていたシーンですが、それが少しずつ戻ってきたのはうれしいことです。
 たとえば「子どものためのワーグナー」のカタリーナ・ワーグナーさんとマエストロ・ヤノフスキ。今年、残念ながらカタリーナさんは来日しませんでしたが、連日オンラインで稽古に参加していました。ある日のこと、「東京春祭ワーグナー・シリーズ」のリハーサルを終えたマエストロ・ヤノフスキが、「子どものためのワーグナー」の稽古を見に行こうと言い出したのです。パンデミックが始まって以降、カタリーナさんに会っていないというマエストロ。「子ども~」の稽古場で、パソコンのモニター越しながら、久しぶりの再会を喜んでいました。

子どものためのワーグナーの稽古場でカタリーナと再会したマエストロ・ヤノフスキ

 マエストロ・ヤノフスキといえば、新たな出会いも印象的でした。マエストロが「ワーグナー・シリーズ」で指揮したNHK交響楽団は、近年どんどんプレイヤーの世代交代が進んでいます。前回マエストロが振った時には、元ウィーン・フィルのライナー・キュッヒルさんをゲスト・コンサートマスターに迎えていましたが、今回はコンサートマスターの白井圭さん以下、若いリーダーたちが引っ張る布陣。彼らが頑張る姿に老マエストロも満足気でした。もちろんマエストロも負けていません。若い彼らに自分のワーグナーを伝授しようという気迫がひしひしと伝わる真剣勝負が繰り広げられていました。
 今年はそんないい出会い、密度の濃い出会いが多かったように思います。この音楽祭を軸にした人間交差点。演奏者のみなさんもそれを感じていたからこそ、室内楽の公演もどれも質が高かった!不思議な一体感を、私たちも感じていました。




3年越しでやっと実現した上演も
 コロナ禍による2度の延期の末に、3年越しでようやく実現した公演もいくつかありました。まさに3度目の正直。たとえばバリトンのマルクス・アイヒェさんの《マゲローネのロマンス》では、俳優の奥田瑛二さんが朗読する上演をやっと見ることができました。

4/11 東京春祭 歌曲シリーズ vol.28
マルクス・アイヒェ(バリトン)&クリストフ・ベルナー(ピアノ)、奥田瑛二(朗読)©︎平舘 平

大人数が出演するブリテンの歌劇《ノアの洪水》の上演も実現。2020年にスタートするはずだった「東京春祭プッチーニ・シリーズ」も、《トゥーランドット》でついに一歩目を踏み出すことができました。それだけに、演奏者のみなさんの思いもいっそう強かったと思います。
 その《ノアの洪水》や《トゥーランドット》、マーラーの交響曲第3番、「子どものためのワーグナー」などでは、児童合唱団のみなさんに歌ってもらうことができました。杉並児童合唱団、NHK東京児童合唱団、東京少年少女合唱隊。どの合唱団も、コロナ以来、歌える場が激減しています。指導の先生方も、なんとかして子供たちに舞台を経験させてやりたいという信念をお持ちで、とても熱心に取り組んでくださいました。大勢が声を出す合唱は、練習場での感染対策など、まだまだ逆風が強く吹いていると思います。快く協力していただいたことに感謝しています。




また来年、桜の季節にお会いしましょう!
 中止になったいくつかの公演があったのは、演奏者のみなさんにとっても私たちにとっても残念ではありましたが、開催できた公演の質は高かったと思います。これで最後にブリン・ターフェルさんが来ていれば、もっと……。おっと。それはもう終わったこと。悔やんでも仕方がありません。
 2024年の音楽祭20周年に向けても、いい春になったのではないかと考えています。来年はまた少し「普通」に戻っていくでしょう。私たち作り手が、今年あらためて感じた演奏家やお客さまの気持ちを大事にしながら、この音楽祭がさらにさまざまな交流の場になるように努力していけば、きっと来年もいいものができるはず。その先に20周年があります。久しぶりに先のことを前向きに考えられる、東京・春・音楽祭らしい上野の春でした。ご来場・ご声援をありがとうございました。
 来年の音楽祭への準備はすでに始まっています。今年は開催できなかった「リッカルド・ムーティ イタリア・オペラ・アカデミー in 東京」はヴェルディ《仮面舞踏会》で行う予定です。もちろんオペラ、オーケストラ、室内楽から声楽・器楽のリサイタルまで盛りだくさん。上野の街じゅうを舞台にする「桜の街の音楽会」についても、どんな形で再開できるのか考えていかなければなりません。より充実した東京・春・音楽祭を、みなさんに心から楽しんでいただけるよう、スタッフ一同、元気に取り組んでまいります。また来年、満開の上野の桜の下でお目にかかりましょう!

©︎飯田耕治



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