JOURNAL

続・ふじみダイアリー 今日のハルサイ事務局

対策強化とヤノフスキの「スマホ問題」

対策強化とヤノフスキの「スマホ問題」


東京・春・音楽祭2022の開幕まであとおよそ1ヶ月。コロナ禍の困難な状況はいまだ予断を許しませんが、最高の音楽を一人でも多くのみなさまと分かち合えるよう、スタッフ一丸となって開幕に向かってまいります。その舞台裏を、昨年に続いて東京・千代田区富士見の実行委員会事務局からお届けします。

 2月中旬現在、感染収束の兆しがはっきりとは見えない新型コロナウイルス感染症の「第6波」。みなさんの生活にもさまざまな影響が及んでいると思います。東京・春・音楽祭も、昨年よりさらに徹底した感染防止対策に取り組む必要を感じています。

昨年は出演者向けPCR検査回収所を設置

 とくに出演者の方々に対して。昨年は厚労省の指導に従って、いわゆる「バブル方式」で入国したマエストロ・ムーティと共演する「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京」の出演者に、定期的なPCR検査を行いました。しかし今年は、国内組を含めたすべての出演者に、ホール入館時のウイルス検査をお願いすることも視野に入れて検討しています。その場合は、事前のPCR検査ではなく、10分程度で判定結果が出る抗原検査のほうが有効ということになるでしょう。現在不足気味と報じられている抗原検査キットが、今後いつ十分に供給されそうなのかも注視しているところです。

 検査の実施状況について海外の歌劇場のスタッフに尋ねてみたら、「全員検査はいいのだけど、狭い楽屋口でやらざるをえないので、そこが密になってしまっている」と苦笑していました。なるほど。会場によって条件が違うので、検査方法を工夫する必要はありそうです。

 また、たとえば各オーケストラのように、出演者のみなさんもそれぞれ自分たちのルールに則った感染対策を行なっているでしょうから、個別の事情も考慮しつつ、実現可能なベストな対策を講じることができるように、きちんと準備を進めていきたいと思います。

 報道によれば、3月には水際対策を緩和する方針ということで、少しほっとしているところではありますが、外国人の新規入国が認められたとして、すぐに手放しで喜べそうもありません。

 たとえばワクチンの接種証明。入国時に接種証明書を提示することでその後の隔離待機期間が短縮される措置は継続されると思います。そうなると出演者がすでにワクチンを接種しているのかによってそれに見合った待機期間を想定してスケジュールを組む必要があります。しかも、日本政府が有効と認めている、ファイザー、アストラゼネカ、モデルナの3種類以外のワクチンを接種している人もいるようで……。ワクチンが理由でキャンセルになってしまうことが絶対にないよう、念入りな確認作業が続きます。

 もうひとつが「スマホ」です。入国者は待機期間中、自分のスマホに日本政府の「入国者健康居所確認アプリ」をインストールし、つねに携帯することが義務付けられるはずです。しかし、スマホを持っていない人や、持っていても扱いに不慣れな人の処遇は気になります。東京・春・音楽祭で言えば、マエストロ・ムーティとマエストロ・ヤノフスキという二人の巨匠の顔が真っ先に浮かぶのです。

 とくに2月18日に83歳を迎えるマエストロ・ヤノフスキ。高潔な巨匠はたぶんガラケーさえ持ったことがありません。しかも秘書やマネージャーに頼らずになんでもご自分でなさる方なので、海外へもいつも一人旅です。もしスマホを持ってもらったとして、空港で自力でアプリをインストールするのは無理そうな気がします。

 マエストロとの連絡はいつも固定電話。最近までベルリンのご自宅で使っていたファックス機は壊れてしまったとかで、マエストロとのコミュニケーションはもっぱら「声」が頼りなのです。しかしその代わりというか、世界的な巨匠であるにもかかわらず、自ら電話をかけてきてくださって、当面の予定などを細かく教えてくれるのには本当に頭が下がります。年明けには「ハッピー・ニューイヤー」の直電もいただきました。

「新年おめでとう! 2月はドレスデン・フィルを振る。オーケストラの秘書なら私の居場所がわかるから、何かあれば彼女に電話しなさい。そのあとは久しぶりにMETで《ナクソス島のアリアドネ》を指揮しに行くけど、ニューヨークの滞在アパートがまだ決まっていないので、また連絡する」(後日ちゃんと連絡がありました)

 写真だと気難しい感じのマエストロに見えるかもしれませんが、じつに気づかいの人なのです。

 そんなマエストロと昨年末に一度だけ、Zoomミーティングをしました。どうしてもスコアを見ながら確認しなければならない案件があったのです。もちろんマエストロはZoom初体験。いつも協力してくれるウィーン在住の外部スタッフに、パソコン持参でベルリンまで飛んでもらったのでした。

 便利ではありましたが、やっぱり、昔ながらのやり方にこだわるほうがマエストロらしい気もしました。あの薫り高くも颯爽としたワーグナーは、それだからこそ生まれるような気がするのです。入国時のスマホ問題をどうするかは……。考え中です。



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