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東京・春・音楽祭 2022 がいよいよ幕を開けました!

東京・春・音楽祭 2022 がいよいよ幕を開けました!

 数日前の初夏の陽気が一転、冷たい冬の雨が降るあいにくのお天気となりましたが、東京・春・音楽祭2022は3月18日(金)、無事開幕しました。その始まりは、熱狂的に、ではなく、静かに、深く、真摯なマエストロ・リッカルド・ムーティの平和のメッセージでした。

 「音楽は、調和、美、平和、兄弟愛をもたらすはずです。その一方で、罪のない人々が殺されていることや、女性、男性、子供から、自由、誠実さ、尊厳が奪われていることを知りながら、音楽を奏でることは困難です。どんな状況であっても音楽を絶やしてはいけません。
このような困難な状況にもかかわらず、皆様がここに来てくれた。私たちは皆様のために演奏し、ウクライナの人々のために演奏し、苦しんでいる世界中のすべての人々のために演奏します。ここにいる若いオーケストラ、若い音楽家の存在は、より良い未来への希望です」(全文はこちら
 この前日、マエストロは、鈴木幸一・東京・春・音楽祭実行委員長との話し合いで次のように語ったそうです。
「いつもの音楽会なら、あえて言葉を挟む必要はない。でもこの音楽祭が、配信によって世界中の人々が 見る機会であるのなら、いま何か言葉が必要ではないだろうか」
 じつは「リッカルド・ムーティ指揮 東京春祭オーケストラ」の2公演は、国内限定配信の予定でお知らせしていました。しかしマエストロの意向を受けて急きょ、世界配信が認められたのです。
 コンサートは流れるようなモーツァルトの交響曲第39番で始まり、繊細な緊張感に満ちたシューベルト《未完成》、一転して開放的なシューベルト《イタリア風序曲》へ。若い音楽家たちの自由な息づかいを感じさせる幸せな時間があっというまにすぎていき、客席からは大きなあたたかい拍手が湧き起こりました。
 客席で、あるいは配信でコンサートをご覧になった方は、《未完成》のあとの、ちょっと不思議な「間」が気 になったのではないでしょうか。曲が終わり、何度かの拍手を受けたあと、マエストロがコンサートマスターの 長原幸太さんと何か言葉を交わしました。そして「I will come back !」と言っていったん舞台袖に戻ってから、あらためて次の《イタリア風序曲》を始めたのです。
 終演後、長原さんが「真相」を教えてくれました。《未完成》のあと、最後の《イタリア風序曲》で出番のないトロンボーン・パートの人たちは袖にはけるのですが、そのタイミングが少々早く、まだ《未完成》の拍手が続いているあいだに退場してしまったのです。
マエストロ「彼らはどうして引っ込んじゃったんだ?」
長原「タイミングがわからなかったみたいです」
マエストロ「おやおや」

 ここでそのまま演奏を続けてもよかったのかもしれませんが、いったん袖に戻って一呼吸おいてから最後の曲をスタートした。という事情だったそうです。

©︎平館 平

コンサートに先立って、この日正午からは、報道陣の皆さんにお集まりいただき開幕会見を開催しました。その席上、質問に答える形で鈴木実行委員長が語った、東京・春・音楽祭を始めた最初の理由が印象的でした。
 1970年代に仕事でプラハを訪れたのは、ドプチェクの改革運動「プラハの春」のあとの時期。ソ連がワルシャワ条約機構軍を率いて軍事介入し、プラハ中心部のヴァーツラフ広場にも戦車が並んでいるような状況だったそうです。
「仕事が終わった僕が帰国しようとしたら、地元の人々が『もうすぐプラハの春音楽祭だから、それを聴いてから帰国しろ。音楽祭だけが私たちの誇りだ』と引き止めるんですね。占領下で、本当に真っ暗な時代。でも人々は、音楽祭があるから生きていられるという。それぐらい音楽が強い力で喜びを与えてくれる。その体験が、この音楽祭を始めたきっかけです」
 まさに今、マエストロ・ムーティの「Music must go on.」という言葉と呼応します。どんなに困難な状況でもきっと、音楽が、前を向く勇気を与えてくれることを信じたいと思います。

 東京・春・音楽祭2022は、4月19日(火)まで、全70公演を上演します。週明けにはようやくまん延防止等重点措置も解除され、上野の桜の開花も、もうまもなくです。皆さん、ぜひお運びください。

©︎平館 平



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