ドヴォルザークは3人の幼い子供を亡くしている。1877年に次女、長男を続けて失った時《スターバト・マーテル》を作曲した。その2年前の1875年、長女ヨセファに先立たれた35歳の父は、翌年1月4日から20日にかけて、このピアノ三重奏曲を一気に書き上げた。伝統的な4楽章形式に沿ったスタイルだが、音楽は沈痛な色に染められている。ソナタ形式の第1楽章は、痛打のようなトゥッティで開始される。戸惑いと悲嘆に暮れる第1主題、駆け抜けるような第2主題にも安らぎはない。ラルゴの第2楽章は、子守唄のような優しいテーマが印象的だが、すぐに悲痛な表情に覆われる。のちのスラヴ舞曲を想起させるスケルツォの第3楽章。切迫した主部とは対照的に、トリオは童謡のように素朴だ。アレグロの終楽章は、激越なポルカのように始まる。これも暗鬱なメロディだ。コーダはそれを振り払うように、華やかなヴィルトゥオージティを披露して終わる。

　このピアノ三重奏曲は、交響曲第6番《交響的幻想曲》（1953）のプロトタイプとされている。始まりの不可思議なピアノのトレモロ音型が、そっくりそのまま交響曲に使われているからだ。ちなみに、同交響曲にはドヴォルザーク《レクイエム》の「キリエ」からの引用があり、ピアノ三重奏曲では同じ《レクイエム》の冒頭の音型をヴァイオリンが奏でる。このパッセージがもととなって第1楽章は発展し、音楽は時にのどかな、時には悲痛な表情をみせる。第2楽章はアンダンテ。弔鐘のようなピアノの和音に導かれて、チェロがまた第1楽章のテーマを沈痛に奏でる。ピアノは葬送行進曲さながらだ。アレグロの終楽章は、ロンドとトッカータが複雑に融合する。活発なリズムの民族舞曲と、のびやかな民謡風のメロディの交錯。雄弁なピアノに乗って弦楽器が踊る。ついに陽気さを見出せないまま、あやうく崩れそうなコーダで終曲する。祖国の外務大臣マサリクを追悼しているという説が有力だ。

　このト短調のピアノ三重奏曲は、4歳で逝った長女ベドジーシカの早世に苦しむなか、1855年に書き上げられた。斬新というよりも、異様という言葉が似つかわしい。3つの楽章全てがト短調という調性で書かれているうえに、緩徐楽章を欠き、全ての楽章に急速なテンポ指定が与えられている。ソナタ形式の第1楽章は、低音で悲痛な歌を奏でるヴァイオリン独奏。半音階の旋律はバロック時代の「涙 流るる」という音型だ。第2楽章はスケルツォで、ロンド主題はポルカのリズムに乗って、哀愁漂う旋律が歌われる。第3楽章は対照的な2つの主題が交差する。タランテラ風の激越な舞曲は、ボヘミア民謡「トウモロコシの種を撒いた」の引用。慰めに満ちた旋律は、ト短調のピアノ・ソナタ（1846）からの引用。コーダの直前には、また葬送行進曲が奏でられるが、まるで娘の天上での幸福を確信したかのように、このテーマが力強く輝かしく演奏され、最後には「トウモロコシの種を撒いた」のパッセージが楽しげに奏でられる。