「シャコンヌ」は、J.S.バッハ《無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番》の終楽章（第5楽章）に置かれている。バッハの無伴奏作品のなかでも屈指の名曲であり、単独で取り上げられる機会も多い。イタリア出身で、ドイツを中心に多方面で活動したフェルッチョ・ブゾーニは、バッハの楽譜校訂者としても知られ、バッハ作品に関しても本曲を含め、多数の編曲を手がけている。

　リストは1846年、シューベルトの連作歌曲集《美しき水車小屋の娘》（全20曲）から6曲を選んで編曲した。「水車小屋と小川」はその一つで、歌曲集では終盤の第19曲に置かれており、恋に絶望した若者が死に安らぎを見出そうとする場面である。
　シューベルト歌曲の編曲をまとめて1838年に出版したのが《12の歌》。その第8曲が「糸をつむぐグレートヒェン」。原曲は、ゲーテの『ファウスト』第1部で、悲劇のヒロイン・グレートヒェンがファウストを想いながら糸をつむぐ場面を描写している。また、第2曲「水の上で歌う」の原曲（D774）は、水面に夕陽がきらめき、小舟がゆったりと波間を漂う様を表現している。

　ラフマニノフには練習曲集《音の絵》という題名の作品が二つある。どちらも練習曲というレベルを越えた超絶技巧の難曲が並ぶ。本日は1916～17年に作曲された作品39から2曲をお届けする。「第5番 変ホ短調」はアパッショナート。3連符の和音の刻みを伴奏に、力強い主題が歌われる。「第1番 ハ短調」はアレグロ・アジタート。右手の急速な分散和音に左手のシンコペーションのリズムが絡む。技巧的な激しさと高貴な美しさを合わせ持っている。
　1896年に書かれた全6曲からなる《楽興の時》は、ラフマニノフ初期のピアノ作品。ピアニスティックな曲と歌謡性のある曲とが交互に組まれている。今回は技巧寄りの2曲を取り上げる。「第2番 変ホ短調」はアレグレット、「第6番 ハ長調」はマエストーソ。どちらも隙間なく埋め尽くされた音符の上を、旋律が飛び回る。

　リストのバラードは2曲あり、ロ短調の第2番は1853年の作。大曲である「ロ短調ソナタ」の完成時期とも重なる。冒頭から低音の無気味なうねりに乗せて最初の主題が呈示され、それが一段落すると可憐な次の主題が現れ、行進曲のような力強いリズムを経て、叙情的な三つ目の主題が安らぎのなかに現れる。これらの旋律が技巧を交えて幻想的な盛り上がりをみせ、最後は静かに曲を閉じる。

　1838年に作曲された、ピアノのための幻想曲集《クライスレリアーナ》は、ショパンに献呈されている。タイトルの「クライスレリアーナ」は、音楽家としても多才ぶりを発揮したドイツ・後期ロマン派の作家 E.T.A.ホフマンの同名音楽評論集から採られている。その中の登場人物クライスラーに、シューマンは自分とクララ（恋人）を重ね合わせた。当時シューマンは嫉妬深い義父にクララとの関係を遮断され、精神的に辛い境遇にあった。全8曲の小品が、急／緩の順で交互に配置されている。全編を通じて激情と優しさが交錯し、ロマン主義の深淵を覗くような充実した作品になっている。