ドイツに生まれ、19世紀から20世紀前半にかけて作曲家、指揮者として活躍したR.シュトラウス（1864-1949）が生涯にわたり心血を注いだのが、交響詩に代表される管弦楽曲、歌曲、そしてオペラであった。精妙にして甘美なメロディと、卓越したテキストが融合したR.シュトラウスの声楽作品は、後期ロマン派の特徴を全て兼ね備えている。

　3作目の歌劇《サロメ》（1905年初演）で、R.シュトラウスは古今の一流オペラの作り手に肩を並べたと言っていいだろう。O.ワイルドの戯曲『サロメ』を“遠慮なき”天才が鮮烈で退廃的な傑作オペラに仕立てた。
　快楽と欲にまみれる領主ヘロデと妻ヘロディアスの間に生まれたサロメは、古井戸に囚われている予言者ヨカナーンにひかれ、愛とも情欲ともつかぬ狂気へと堕ちていく。部下を甘言でたぶらかし、ヨカナーンを井戸から引き出したサロメ。そこで彼女が歌うのが「ああ！ お前は自分の口に接吻させようとはしなかった、ヨカナーン！」。サロメはヨカナーンの肉体を乞い、情熱的に迫るが、彼はその欲望を拒む。それでもサロメは「お前の口がほしい」と迫る。
　ヨカナーンの予言に怯えるヘロデは、娘サロメに「ほしいものは何でも与える」と舞を踊らせる。サロメは身に着けた7枚のヴェールを1枚ずつ脱いでいくが、その官能的な踊りを音楽化したのが「7つのヴェールの踊り」。単独で取り上げられることもある有名曲で、シュトラウスの巧みな筆致により、音楽の高揚が次第に激烈なものへと達する。

　《4つの最後の歌》は、R.シュトラウスが亡くなる前年（1948）の作。タイトルは作曲者自身がつけたものではないが、まさしく最後の作品である。二つの世界大戦を生き抜いた老大家は、まずアイヒェンドルフの詩「夕映えに」に接し、これに音楽を付けることを思い立った。そして、折良く手にしたヘッセの詩集から選んだ3篇に付曲したものと合わせた。
　本作は、老境や死との対峙、自然の美しさなどが渾然一体となり、音楽全体が幽玄な光を発して、聴く人の胸をうつ。長く夢見た春に包まれ恍惚感に満たされる「春」、夏の終わりの雨の中、一枚ずつ葉を落とすアカシアに秋を感じる「九月」、疲れ果てて夜の国に焦がれ、眠りにつく心を歌う「眠りにつくとき」（以上、ヘッセ）。そして「夕映えのなかで」（アイヒェンドルフ）では、「苦しい時も、うれしい時も、僕らは手をとりあって歩いてきた」と歌い、トリルで奏でられるヒバリのさえずりが静かに遠ざかっていく。