イタリア語に語源をもつ「ディヴェルティメント」は、富裕階級の食卓で演奏された室内楽曲で、今風に言うとBGM。基本的に、野外用はセレナード、室内用はディヴェルティメントと区別される。作曲は、モーツァルトが2度目のイタリア旅行から戻った16歳前後とされる。ただし、この種の音楽に必須であったメヌエット楽章を欠いているため、K.136～138の3曲は本来、シンフォニア（小さな交響曲）であったという説が有力となっている。「急／緩／急」の3つの楽章は、それぞれソナタ形式で整然と作曲されており、「イタリア風序曲」ないしは「ザルツブルク交響曲」という呼び方が相応しい音楽である。

　モーツァルトの5曲のヴァイオリン協奏曲のなかで唯一自筆譜が遺されている作品。ソナタ形式の第1楽章はアレグロの軽快なテンポに乗って、オーケストラがフランス風のギャラント趣味を振りまく。ところが、そこに登場する独奏ヴァイオリンは、意表を突いた遅いテンポでメロディを奏で始める。ゆっくりとしたアダージョでの開始は、ヴァイオリンの優雅さをいっそう際立たせる。アダージョの第2楽章は、2つの主題が展開されるソナタ形式。微光がさすような穏やかな楽想を湛えている。ロンド形式の最終楽章は、冒頭から典雅なギャラント趣味が横溢する。それだけに「トルコ風マーチ」が突如として現れるイ短調の中間部は衝撃的。異国情緒を想わせるオーボエに導かれて、チェロやコントラバスはコル・レーニョ奏法で荒々しく弦を叩く。メヌエットと行進曲の対照性が鮮やかな、19歳の天才の絶好調ぶりを示した逸品である。

　反啓蒙主義を標榜し、18世紀後半のドイツを席捲した文学運動「疾風怒涛」（シュトゥルム・ウント・ドラング）に感化された17歳のモーツァルトの傑作。“疾風怒濤時代のハイドン”と言われるほど、ヨーゼフ・ハイドンはこの運動に染まっていた。そして、快活明澄だったモーツァルトの作風が、1773年のウィーン滞在以降、一変する。推測される要因としては、ウィーンで耳にしたと思われるヴァンハルやハイドンの「ト短調シンフォニー」の影響だ。なかでもハイドンの交響曲第39番（1769年）は、この時代としては珍しく、計4本（G管とB♭管を2本ずつ）のホルンを使用しているが、モーツァルトは自身のト短調シンフォニーでそっくりそれを踏襲している。
　第1楽章冒頭から、激しい感情の発露を重んじる「疾風怒涛」の思潮に則って、荒々しいシンコペーションのリズムが必死の形相で駆け上るメロディを追い立てる。苦笑しながら踊るような第二主題も印象的で、のちの《ドン・ジョヴァンニ》を想わせる。三部形式の第2楽章では、ヴァイオリンとファゴットが拉致のあかない対話を繰り広げる。この楽章でのみ使用されるファゴットの存在も不思議。第3楽章は、ほの暗い情念に満ちたト短調のメヌエット。対照的に平明なトリオは管楽器だけで演奏される。ソナタ形式の終楽章アレグロは、第1楽章のシンコペーションの動機を引き継ぎつつも、前楽章のメヌエット主題に酷似したテーマで始まる。もはや第1楽章に垣間見られた苦笑は跡形もなく、暗澹とした気分のまま駆け抜けていく。