1934年、28歳の時に書かれた唯一のチェロ・ソナタ。20歳の女学生との恋愛で離婚の危機にあったショスタコーヴィチは、内なる嵐から逃避するかのように、本作に打ち込んだ。全4楽章の古典的な構成で、溢れ出るような抒情のなかにもショスタコーヴィチならではの冷たい感触がキラリと光る。諧謔に富んだリズムから瞑想的な旋律まで、振幅の大きい作品であるが、所々にふと自省的なユーモアが添えられている。

　ショスタコーヴィチのヴァイオリン作品の多くは、同世代のヴァイオリンの名手ダヴィッド・オイストラフを念頭に書かれている。本曲は、オイストラフ60歳の誕生日を祝して1968年に作曲。全3楽章からなり、第1楽章アンダンテはソナタ形式。冒頭のピアノで弾かれる4度音程の上行音型が、全体の性格を決定する基本要素となっている。第2楽章アレグレットは、前後の楽章と対照的な激しい音楽。最終楽章は、8小節のラルゴの序奏を経てアンダンテとなり、4度音程中心の主題が自由に展開される。難技巧を要するピアノとヴァイオリンのカデンツを経て最高潮を迎え、結尾のラルゴに入って消え去るように終わる。

　ショスタコーヴィチ最後の作品で、死のわずか4日前（1975年8月5日）に完成した。ショスタコーヴィチの多くの弦楽四重奏曲を初演したベートーヴェン弦楽四重奏団の二代目ヴィオラ奏者フョードル・ドルジーニンに献呈され、レニングラードでの初演もドルジーニンがヴィオラを弾いた。作曲者の示唆によると、モデラートの第1楽章は「短編小説」。ヴィオラのピツィカートで始まる冒頭部分は、ベルクのヴァイオリン協奏曲に酷似している。アレグレットの第2楽章では、第8場までスケッチとして残された未完の歌劇《賭博師たち》からの抜粋が用いられている。アダージョの第3楽章は「ベートーヴェンへのオマージュ」。ヴィオラのモノローグのあと、《月光》ソナタを想わせるアルペジオがピアノによって奏でられる。その後、最果ての地を行くような音の対話が続き、最後は息を引き取るように終曲する。