ルイージ・ボッケリーニは、ハイドンやモーツァルトと同時代に活躍した作曲家。20世紀にはほとんど忘れ去られ、本作の第3楽章が「ボッケリーニのメヌエット」として知られるくらいだった。この弦楽五重奏曲は1771年に作曲された6曲セットの5曲目。弦楽四重奏にチェロを加えた編成だ。４つの楽章は「緩／急／緩／急」の教会ソナタ形式。第1楽章はアモローソ（優しく）の指示に相応しい調べが、表情を変えながらゆったりと流れていく。ソリスティックな部分はバロック的だ。第2楽章はロンド風のアレグロ。ヴァイオリンが号令をかけるといっせいに闊達な音楽が始まり、やはりバロック的な狩りの音楽を連想させる。お馴染みの第3楽章はメヌエット。ピツィカートに乗ってヴァイオリンが典雅な旋律を歌う。おどけた可愛らしさのトリオとは好一対の表情が絶品。第4楽章はロンド形式のアンダンテ。2つのテーマが、ときに愁いを帯び、ときに元気溌剌と奏でられる。

　モーツァルトは生涯に6曲の弦楽五重奏曲を残した。弦楽四重奏に（ボッケリーニのようにチェロではなく）ヴィオラを加えた編成である。31歳の時の本作は、3曲（K.406、515、516）をまとめた楽譜予約出版のために書かれた。第1楽章はソナタ形式のアレグロ。内声の3つの楽器が和音を刻むなか、ヴァイオリンとチェロが声を交わすように力強い主題を奏でる。ほとんどテンポを緩めることなく歌われる第2主題は、水がすべり落ちるような典雅さ。アレグレットの第2楽章は複合三部形式のメヌエット。たゆたうようなメヌエットに対して、トリオではヴァイオリンが快活に疾走する。だが、明確に対比を狙うわけではなく、混然一体となって音楽が進行する。アンダンテの第3楽章は展開部を欠くソナタ形式。優しいメロディが横溢し、チェロの伴奏音型さえも歌っている。アレグロの第4楽章はロンド・ソナタ形式。2つの主題をもとに5声が入念な対位法を繰り広げる。

　この弦楽六重奏曲は交響曲への道のりとして、作曲技法を磨くための布石であったとも言える。編成はヴァイオリン2、ヴィオラ2、チェロ2と低域重視。27歳（完成時）の若やぎ以上に、渋い哀歓が魅力となっている。第1楽章はソナタ形式のアレグロ。ヴィオラ1、チェロ2で重厚に開始される第1主題が雄大なスケールを感じさせる一方、第2主題は子守唄のような優しさを秘めている。第2楽章アンダンテは主題と6つの変奏からなる変奏曲。冒頭でメロディを歌うのはヴィオラ。上がっては下がり、寄せては返すハンガリー民謡風の音楽は、ブラームス一世一代の名旋律だ。第3楽章は陽気なスケルツォ。トリオは急速な舞曲で、ドローンの響きさえ聞こえて来そう。第4楽章はロンド形式のアレグレット。第1楽章と同様にヴィオラ1、チェロ２が大らかな旋律を奏でて始まる。終始おだやかに進行したのち、ヴィオラに先導される急速なコーダで閉じられる。