J.S.バッハの《無伴奏チェロ組曲》（全6曲）が書かれた年代は、ケーテン宮廷楽長時代（1717-23）の前期と推定されている。本日は「組曲 第3番」から三つの楽章を抜粋してお届けする。第1曲プレリュードは、16分音符が淀みなく流れるスケールの大きな音楽。第4曲は、典型的なサラバンドのリズムにメロディが勝っていく瞬間が美しい。第6曲は、終曲にふさわしい堂々としたジーグ。

　ウィーンの楽器製作者シュタウファーが1823年に発案した「アルペジオーネ」というフレット付きの弦楽器は、いわばチェロのように弾くギターだったが、普及には至らなかった。本作は、そのアルペジオーネのために書かれたものとしてはおそらく現存する唯一の楽曲で、ヴィオラ、チェロ、ギターなど様々な楽器で演奏されている。シューベルトならではの哀愁が存分に感じられ、今日に至るまで広く愛聴されている。

　サラサーテは自らの演奏会で奏するために技巧的なヴァイオリン曲を数多く生み出した。なかでも「ツィゴイネルワイゼン」（「ジプシー〈ロマ〉の歌」という意味）はもっとも有名な作品。ヴァイオリンの名人芸と、哀愁に満ちた旋律がほどよくブレンドされている。

　ピアノやヴァイオリンには大作があるにもかかわらず、チャイコフスキーはチェロ協奏曲を書いていない。ただ、いくつかのチェロ作品は残されており、本曲もその一つ。友人のチェロ奏者アナトリー・ブランドゥコフのために1887年に作曲され、ブランドゥコフのチェロ、作曲者自身のピアノ伴奏により翌年、初演された。チェロがフォルテッシモで導入部分を弾き終えたのち、どこか物憂げな旋律を歌い始める。技巧的で軽快な中間部を経て、甘美な旋律が回帰し、最後はまた急速なテンポで盛り上がって終わる。

　メンデルスゾーンの短い生涯では晩年と言える1843年（34歳）の作。この年は自ら奔走してライプツィヒ音楽院を設立するなど、充実した時期でもあった。チェロ奏者の弟パウルや、親友のチェロ奏者アルフレード・カルロ・ピアッティの助言を受けて書かれたという。4楽章構成で、ソナタ形式の第1楽章は、晴れやかな旋律が自由を謳歌するように歌う。第2楽章は、おどけたような微妙な表情を見せる。第3楽章は、まるで「無言歌」のようなピアノの長い前奏に続いて、ようやくチェロが登場し、深い情緒を込めた旋律を奏でる。ロンド形式の終楽章は、生き生きとした速いパッセージの応酬で最後を飾る。