ソフォクレスの悲劇にもとづいたジョン・ドライデンの舞台作品『オイディプス』（1679）の劇音楽の第2曲として1692年に作曲。ひとときの音楽に身を委ねよという歌だが、この後に起こる悲劇を予感させる不穏な美しさがある。

　ヘンデルの歌劇《リナルド》は、1711年の初演で大成功を収め、ロンドンでのオペラ活動へ活路を開いた作品。その第2幕の劇中でリナルドの恋人アルミレーナが歌うアリアは、静けさを湛えた旋律が心を打つ。

　シューベルトの晩年に書かれた計14の歌曲は、死後まとめられて1829年に出版された。《白鳥の歌》という表題は、死の直前にひと鳴きする白鳥になぞらえている。歌曲集冒頭を飾る本曲は、ゆったりとした愛の歌で、演奏機会も多い。

スペインの作曲家でギター奏者のフランシスコ・タレガによる小品。アルハンブラ（宮殿）は南スペインの古都グラナダにある。古くはイスラム勢力下にあったことから特異な文化が育まれ、なかでもアルハンブラ宮殿は世界遺産にも選定された名所。本曲は、同地にちなんだ音楽として愛奏・愛聴され、高度なトレモロ奏法を要する難曲でもある。

　37歳でオペラから引退して、美食家として人生を謳歌したロッシーニ。晩年には様々なジャンルの作品を集めた《老いの過ち》（全14集）を自ら編纂した。その第11集「声楽の雑集」の第6曲「アラゴネーゼ」は、スペイン・アラゴン地方の民族舞曲のリズムを用いたオペラ風の歌曲で、ロッシーニのお気に入りだったメタスタージオの詩の一節が用いられている。

　幼少期に視力を失った20世紀スペインの作曲家ホアキン・ロドリーゴは、ギター作品への多大な貢献によって知られ、代表作に《アランフエス協奏曲》がある。1947年作の《4つの愛のマドリガル》は、16世紀スペインの古謡の旋律を用いた歌曲集。第1曲「何で顔を洗おうか」は、生活の辛さを歌う旋律にも、どこか気品が感じられる。第4曲「母さん、ポプラの林へ行ってきた」は、リズミカルな伴奏にのって、スペイン風のこぶしがまわる明るい恋の歌。

　19世紀フランスの「バレエ音楽の父」とも呼ばれるレオ・ドリーブの1874年の作。歌詞はフランス・ロマン主義の作家アルフレッド・ド・ミュッセによるもので、南西部にあるスペイン最古の港町カディスの、情熱的な娘たちの奔放な姿が描かれている。

　《ブラジル風バッハ》は全9篇からなるヴィラ＝ロボスの代表作。各篇は異なった楽器編成・演奏形態で書かれており、第5番（全2楽章）は、ソプラノ独唱と8つのチェロのための作品。その第1楽章アリア「カンティレーナ」（1938）は、ヴォカリーズに始まり、最後はハミングで復唱される旋律が有名。中間部のポルトガル語の歌詞は、初演者でもあるルツ・ヴァラダレシュ・コレアによるもの。

　「ムーン・リバー」は、映画『ティファニーで朝食を』（1961）で、主演のオードリー・ヘプバーンが歌う劇中歌。「エーデルワイス」は、ミュージカル映画『サウンド・オブ・ミュージック』（1965）ではトラップ大佐によって歌われ、祖国愛の象徴ともなっている。「禁じられた遊び」は、映画『禁じられた遊び』（1952）の主題曲としてナルシソ・イエペスの演奏で一躍有名になったが、もとは19世紀後半に作られた「愛のロマンス」というクラシック・ギターの練習曲だった。「虹の彼方に」は、ミュージカル映画『オズの魔法使』（1939）で主演のジュディ・ガーランドが歌う劇中歌。同年のアカデミー歌曲賞を受賞した。

　加藤昌則は、ピアニスト、企画プロデュース、メディア出演、執筆活動など、多方面で積極的な活動を展開している作曲家。本曲は、東京出身の詩人・高田敏子の詞を用いた1998年の作品で、優しい旋律が心に沁みる。

　「死んだ男の残したものは」は、「ベトナムの平和を願う市民の集会」のために武満徹が1965年に作曲した反戦歌。歌詞は詩人・谷川俊太郎で、戦禍のもたらした残酷さを描いている。「小さな空」は、武満徹による作詞・作曲。1962年に連続ラジオドラマ『ガン・キング』の主題歌として書かれた。子どもの頃の懐かしい感情に、ふと胸を突かれるような歌である。