クラリネットと弦楽四重奏という編成で書かれたソナタ形式の本曲（アレグロ 変ロ長調）の自筆譜は4ページで途切れている。しかし、最後の小節に次の音符へとつながるタイ記号が付いていることから、ここで中断したのではなく、続きのページが失われたものと推測されている。正確な成立年代も作曲動機も不明。クラリネットに寄り添うように弦楽四重奏が優しい対話を繰り広げる。

　1789年、モーツァルトと親交が深かったクラリネットの名手アントン・シュタードラーのために作曲された。初稿はバセット・クラリネットという楽器（低音域が拡張されたクラリネット）を想定していたが、のちに通常のクラリネットでも演奏できるよう、いくつかの変更が施された。
　弦楽四重奏に導かれてクラリネットが活き活きと登場する第1楽章、歌心に満ちたクラリネット独奏と弦楽パートにおける弱音器の使用が巧みな第2楽章、明るさと暗さの対比が特徴的な第3楽章、華やかな変奏曲に彩られた第4楽章という4つの楽章から成る。管楽器を用いた室内楽のなかでも古典派を代表する傑作に数えられている。

　第二次世界大戦末期の1944年に作曲された。初演は（最初と最後を除く）ショスタコーヴィチの全弦楽四重奏曲を初演したベートーヴェン弦楽四重奏団によって行なわれた。緊張をはらんだ時代を反映した内容となっており、友人の作曲家シェバリーンに献呈された。
　第1楽章「序曲」は、ソナタ形式。冒頭の賑々しい主題から次第に切迫した暗みを帯びて行く。第2楽章「レチタティーヴォとロマンス」は、三部形式のアダージョ。第一部（レチタティーヴォ）は、第1ヴァイオリンが朗々と悲劇的な独白を歌う。一転して第二部（ロマンス）は、甘美な旋律が穏やかに奏されて高揚していく。第三部は第一部を再現して静かに終わる。第3楽章「ワルツ」は、ロンド・ソナタ形式。グロテスクな雰囲気を垣間見せる。第4楽章「主題と変奏」は、第1ヴァイオリンとの対話が3回繰り返される荘重な導入部を経て、ヴィオラがロシア民謡風の主題を奏したのち、長大なパッサカリアが展開されて、最後は力強く曲を閉じる。