ブラームスにとって最初の管弦楽作品となるセレナーデ第1番は1858年、25歳のときに完成した。全体は6楽章から構成される。
　ソナタ形式の第1楽章アレグロ・モルトは、規模・内容ともに充実しており、比重の大きな楽章。冒頭でホルンが第1主題を軽やかに奏し、それをクラリネットが受け継いで、力強い全合奏へとつながっていく。ゆるやかな3連符が特徴的な第2主題は、ヴァイオリンによって優雅に現れる。最後は断片的に途切れながら静かに消えていく。第2楽章はスケルツォ。ファゴットと弦で奏される主題はスケルツォらしからぬ雰囲気だが、トリオでは明るい旋律となる。第3楽章アダージョ・ノン・トロッポは、穏やかなホルンの響きが美しい。第4楽章のメヌエットは、トリオの指定がなく、メヌエットⅠ－Ⅱ－Ⅰという三部形式の構成で、編成も小規模にまとめられている。第5楽章は、二つ目のスケルツォで、第2楽章とは対照的に明朗な響きとなり、ホルンが勇壮に活躍する。第6楽章はロンド。行進曲風の快活な楽想となって、曲を締めくくる。

　ブラームスの3曲あるピアノ四重奏曲はどれも20歳頃の若い時期に着想されたが、本曲はそのなかでも最も早い1854年にまず3楽章で構想された（同じ年、シューマンがライン川に投身自殺を図り、精神病院に収容された）。その後、1875年にスケルツォを挿入して全4楽章となり、最初の構想から20年余を経てついに完成した。
　第1楽章は、ソナタ形式。この楽章には、シューマンの悲劇に対する（クララへの思慕を含む）ブラームスの複雑な感情が投影されていると言われる。この作品が「ウェルテル四重奏曲」とも呼ばれる所以である。第2楽章は、三部形式の情熱的なスケルツォ。第3楽章は、ソナタ形式のアンダンテ。シンプルな構成だが、本作中の白眉とも言える深い情緒を湛えた旋律をチェロが歌い、それがヴァイオリンへと受け継がれ、さらにヴィオラも加わって高まりをみせる。第4楽章は、ソナタ形式。無窮動風の動きを見せるピアノに乗って、ヴァイオリンが伸びやかに第1主題を歌う。第2主題は少し緊迫度を増す。ベートーヴェン《運命》に似た動機が所々に散りばめられている。小結尾の弦による讃美歌風の旋律は非常に印象的。最後は特徴のある終止を経て、力強い和音で曲を閉じる。