《無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ》は、ソナタとパルティータそれぞれ3曲ずつで構成されており、バッハの器楽曲の名品が生まれたケーテン宮廷楽長時代（1717-1723）前半の成果とされている。
　ソナタはいずれも4楽章構成で「緩／急／緩／急」の教会ソナタの形式をとっている。「ソナタ 第1番」は、第3楽章にシチリアーナ（シチリアの民俗舞曲）が置かれているのが他のソナタと異なる。第1楽章アダージョは、重音を多用しながら旋律が淀みなく流れ、全6曲の冒頭を飾るにふさわしい荘重な雰囲気と憂愁を湛えている。第2楽章は、バッハの真骨頂ともいうべきフーガ。まるで2挺のヴァイオリンによって奏でられているかのような疑似対位法が展開される。第3楽章の牧歌的なシチリアーナを経て、第4楽章プレストでは、16分音符の単旋律が無窮動的に疾走する。

　ハンガリーの巨匠ヨーゼフ・シゲティのバッハ演奏に触発され、1924年に書かれたのが、イザイの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 作品27」全6曲である。各曲は高名なヴァイオリニストに捧げられており、「ソナタ 第2番」はフランスのヴァイオリニスト、ジャック・ティボーに献呈されている。4楽章それぞれに標題がつけられ、全編を通じて古い聖歌「怒りの日」の旋律が形を変えて現れる。第1楽章は「妄執」という副題を持つ前奏曲。冒頭にバッハ「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番」の第1楽章プレリュードが引用されている。第2楽章は「憂鬱」と題された緩徐楽章。弱音器をつけた2声で、憂愁を帯びた美しい旋律が奏される。第3楽章「影たちの踊り」は変奏形式。第4楽章は「フュリ」（ローマ神話における復讐の女神たち）の名が記された、激しく情熱的なフィナーレで、バッハへの並々ならぬ「妄執」を感じさせる。

　パルティータには、楽章の大半に舞曲の名称が見てとれる。この「パルティータ 第2番」が有名なのは、ひとえに第5楽章に置かれた「シャコンヌ」による。第4楽章までは、伝統的舞曲の定型配置で進み、全体のボリュームとしてはこれらが前半に相当する。そして後半を占めるのが、3拍子系の古い舞曲を出自とするシャコンヌである。シャコンヌの圧倒的な規模、美しさ、崇高さは、本曲集を代表するものであり、この楽章のみ単独で演奏される機会も多い。シャコンヌ冒頭で呈示される8小節の主題は、4小節ずつ前後半に分かれて同じ和声進行を繰り返し、その8小節の主題がさらに30回にわたって変奏されていく。舞曲という枠組みをはるかに超えた長大な音の建築物とも言える音楽である。