18世紀イタリアのトリノに生まれ、トリノに没したガエターノ・プニャーニは、ヴァイオリン奏者・指揮者としてパリやロンドンで活躍し、作曲家としても室内楽からオペラに至る作品を残しており、決して寡作ではない。しかし現代においてその名が知られているのは、20世紀の名ヴァイオリン奏者フリッツ・クライスラーによるプニャーニの名を拝借したヴァイオリン曲によるところが大きい（もっともこれはプニャーニとは関係のないクライスラーのオリジナル曲であったことが判明している）。
　1770年、プニャーニは故郷トリノに戻り、宮廷楽団の首席ヴァイオリン奏者に就任する。そして多くの弟子を育てたが、そのなかには、のちに名ヴァイオリニストとなるヴィオッティがいた。本作品は、全3楽章からなり、前古典派の時代の、明朗な弦の響きを堪能できる。プニャーニの後半生は、モーツァルトの活動期とも重なっており、まだ十代だったモーツァルトは1771年、トリノでプニャーニに会っている。

　プニャーニのもとで学んだジョヴァンニ・バッティスタ・ヴィオッティは、音楽家として輝かしい経歴を歩んだ。ヴェルサイユではマリー・アントワネットに仕え、フランス革命によってロンドンへと逃れた後はヴァイオリンの名手として活躍し、ハイドンとも交流があった。晩年はパリ・オペラ座の指揮者まで務めたが、最後は再びロンドンに戻り、不遇のうちに生涯を閉じた。
　作曲家として特筆すべきは、29曲にのぼるヴァイオリン協奏曲である。そして奏者としては、19世紀フランス・ヴァイオリン楽派の父と呼ばれるほど、後世に大きな影響力を及ぼした。本作品は、急／緩／急の3楽章からなる宮廷ソナタの形式を用いた、創意あふれる協奏的作品である。

　19世紀フランス・ベルギー（フランコ・ベルギー）楽派の創始者とも言われるシャルル＝オーギュスト・ド・ベリオは、パリでヴィオッティにも学んでおり、当代随一のヴァイオリニストとして名を馳せた。彼はまた、故国ベルギーでヴァイオリン教育にも注力し、アンリ・ヴュータンなど多くの弟子を育てたが、晩年は失明や左腕の麻痺を患った。
　作曲家としてはヴァイオリンの多彩な技法を駆使した作品を書いており、特に「バレエの情景」や10曲あるヴァイオリン協奏曲が知られている。本作品は3楽章からなり、華やかな技巧と、甘美で優雅な様式美を味わえる。

　プニャーニから連綿と受け継がれてきたヴァイオリンの系譜、本公演の掉尾を飾るのは、フランコ・ベルギー楽派の巨匠ウジェーヌ・イザイである。彼はヴィエニャフスキに師事したほか、パリではヴュータンにも学んだ（ベリオの孫弟子となる）。ヴァイオリニストとして世界的に活躍しただけでなく、数多くの作曲家や演奏家と交流し、作品の献呈も受けた。フランコ・ベルギー楽派の特徴は、優美な音色と歌心だが、イザイは作曲家としてヴァイオリンに関連する作品を多く手がけて20世紀にふさわしい近代化を推し進め、新たなヴァイオリン奏法の境地を開いた。
　このソナタは、1915年の作曲。3楽章からなり、多彩な技法が用いられている。例えば、ヴァイオリン2本にもかかわらず、重音奏法を駆使することで、まるで弦楽四重奏のような厚みのある豊かな響きが生み出される。本作は、イザイの友人でもあったベルギーのエリザベート王妃（かのオーストリア皇后エリーザベトの姪に当たる）に捧げられ、イザイの没後に創設された国際コンクールは、のちにエリザベート王妃国際音楽コンクールとなって、今日“世界三大コンクール”の一つに数えられている。