「鉾をおさめて」（1928）は、遠洋漁業に勤しむ漁師を歌う。北海道出身の作詞家・時雨音羽の詩に中山晋平が付曲し、オペラ歌手・藤原義江の歌でヒットした。
「花」（1900）は、瀧廉太郎の歌曲集《四季》の第1曲で、日本における芸術歌曲を目指して書かれた。隅田川の春の穏やかな情景を歌った、風情豊かな文語調の歌詞は、国文学者で歌人でもあった武島羽衣による。
「荒磯」（1902）は、格調高い水戸・光圀公の和歌に、瀧廉太郎が付曲。瀧廉太郎は結核により満23歳の若さで亡くなった。本曲は死の前年の作。
「荒城の月」（1901）は、七五調の歌詞と西洋音楽が融合した瀧廉太郎の代表作。詩人・土井晩翠が中学唱歌を東京音楽学校から委嘱されて作詩し、瀧廉太郎の曲は公募により選ばれた。
「鐘が鳴ります」（1923）は、北原白秋の詩に山田耕筰が付曲。遠くの鐘を思わせるピアノ前奏に始まり、暮れていく空を背景に、想い人を待つ感傷を歌う。
「南天の花」（1949）は、長崎で被爆した医師・永井隆の詩に山田耕筰が付曲。原爆を生き延びた自宅の南天の花に亡き妻のおもかげをみる、深い悲しみがさりげなく歌われている。
「この道」（1927）は、北原白秋作詞、山田耕筰作曲による童謡。前半（1、2番）は白秋が晩年に訪れた北海道、後半（3、4番）は白秋の実家がある九州・柳川の情景が織り込まれている。
「天の原」（1934）は、作曲者の貴志康一がベルリン留学中に同地で出版した《7つの日本歌曲》所収。奈良時代、唐へ留学した阿倍仲麻呂が詠んだ「古今和歌集」の歌に曲を付けたもの。
《沙羅》（1936）は、国文学者で東京音楽学校教授でもあった清水重道の詩に、同校教授の作曲家・信時潔が付曲した独唱曲集。本日は全8曲のなかから「あづまやの」「北秋の」「鴉」「行々子」の4曲をお届けする。
「平城山」（ならやま）は、奈良県北部にある丘陵地帯で、奈良という地名の語源の一つとされる。「甲斐の峡」は、山梨県甲府盆地の北、「日本五大名峡」の一つである昇仙峡かと言われている。「九十九里浜」は、千葉県東部の九十九里浜を歌う。以上3曲（1935）は三部作をなし、高知県宿毛の歌人・北見志保子の短歌に、同じく高知出身の作曲家・平井康三郎が付曲した。
「椰子の実」（1936）は、明治の文豪・島崎藤村の詩。友人の民俗学者・柳田國男が伊良湖岬（愛知県）に滞在した際の体験談を、藤村が聞いて詩にした。大中寅二の作曲、東海林太郎の歌でリリースされた。
「かわいいかくれんぼ」（1951）の作曲者、中田喜直は本土で特攻隊要員として終戦を迎え、戦後、作曲家として活躍。詩人サトウハチローとのコンビで数々の名作を世に出した。
「夕方のおかあさん」（1954）も、サトウハチローと中田喜直のコンビによる傑作の一つ。「ごはんだよ」というおかあさんの言葉が、聴く者を在りし日に誘う。
「小さな空」（1962）は、武満徹による作詞作曲で、連続ラジオドラマ『ガン・キング』の主題歌。子どもの頃の懐かしい感情に、ふと胸を突かれるような歌である。
「早春賦」（1913）は、文部省唱歌の傑作として長年愛唱されてきた。長野県中部の安曇野一帯の初春の風景を描いた吉丸一昌の歌詞に、中田喜直の父・中田章が付曲。
「夏の思い出」（1949）の歌詞は、江間章子が1944年に訪れた尾瀬のミズバショウに感動して書いた。中田喜直の作曲によりNHKのラジオ番組で発表され、尾瀬は一躍、人気観光地となった。
「ちいさい秋みつけた」（1955）も、中田喜直がNHKの特別番組のために作曲。歌詞は、サトウハチローが自邸のハゼノキが紅葉する様を見て書いた。
「雪の降るまちを」（1951）は、NHKラジオドラマ「えり子とともに」の挿入歌。ショパン「幻想曲 ヘ短調」との類似が指摘されているが、中田喜直はショパンに傾倒するピアニスト志望の青年だった。
「出船」（1928）は、作詞者の勝田香月が、石川啄木ゆかりの地を訪ねる旅路の大滝温泉で書いたもの。勝田を見出した作曲者の杉山長谷夫は、多ジャンルにわたって作品を残した。
「初恋」（1938）は、歌曲集《啄木によせて歌える》の第1曲で、オペラ歌手・三浦環に捧げられた。息をのむほどに美しい旋律をつけたのは、俳優の経歴も持つ作曲家・越谷達之助。越谷は三浦のピアノ伴奏者を務めた。
「津軽のふるさと」（1953）は、美空ひばりのシングル盤レコードとして発売。青森県のご当地ソングでもある。作詞作曲の米山正夫は、シベリア抑留から復員して、初期の美空ひばりのヒット曲を数多く手掛けた。