東京・春・音楽祭

　ニルス・ゲーゼは、19世紀デンマークの作曲家。メンデルスゾーンに認められ、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の指揮者としても活動し、晩年には教育者として北欧の音楽界に名を残した。
　ゲーゼのヴァイオリン・ソナタは第１番から第3番まであり、第2番は1849年春に作曲された。出版は翌年で、ロベルト・シューマンに献呈された。3楽章から構成され、ドイツ・ロマン派の影響が濃厚な旋律美と、北欧の澄んだ風通しの良さが随所に感じられる佳品となっている。

　グリーグとも親交があったヨハン・スヴェンセンは、ノルウェー出身の指揮者・作曲家だが、生涯の大半をデンマークの首都コペンハーゲンで過ごした。1881年に作曲された「ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンス」は、彼の代表作でもあり、ピアノ伴奏による編曲でも広く知られている。ロマンスの香りを湛えた旋律は、息を呑むほどに美しく、次第に昂っていく感情の波や、うっとりした憧憬の表情などは、ロマン主義の王道とも言える。

　20世紀初頭のデンマークで活動した作曲家でオルガン奏者のルーズ・ランゴーは、同時代のデンマーク国内ではなかなか理解が得られず、その前衛性などの再評価が進んだのは1960年代になってからだった。近年ではさらに演奏機会や、録音される作品も増えつつある。彼はフル・オーケストラとオルガンのための交響楽など、大規模な作品も書いているが、晩年には本作を含む室内楽作品を多く残している。
　ヴァイオリン・ソナタは第1番から第4番まで書かれており、この第3番は第二次世界大戦後の1945～49年に作曲された。5楽章からなり、各楽章は数分程度のボリュームだが、隙のない充実した書法と才気あふれる楽想に、一瞬たりとも気が抜けない。溌剌として甘美な旋律は明らかに後期ロマン派に属しているが、現代的な感覚に驚かされる部分も多い。