ヨハネス・ブラームス（1833-97）は若い頃からピアノの名手であった。3曲のピアノ・ソナタをはじめ、ピアノ曲はおもに初期に作曲されたが、最晩年には再びこの愛する楽器へ向かい、op.116からop.119までの小品集を集中的に書いた。
　そこでは非常に内省的な音楽が綴られており、特に「インテルメッツォ（間奏曲）」と名づけられた数曲のうち、今回弾かれる3曲（1893）はどれも詩的で、哀しみと慰めに満ちている。作曲技法としては、まさに熟練の境地に達しており、独自の和声進行やモティーフの凝縮した展開など、シェーンベルクをはじめ、のちの作曲家に多くのインスピレーションを与えた。

　ウィーン生まれのアレクサンダー・フォン・ツェムリンスキー（1871-1942）は、ブラームスに推されて世に出たのち、ワーグナー以降の官能的な和声感に彩られた後期ロマン派の作風に移り変わりつつ、多くの作品を残した。ドイツの詩人リヒャルト・デーメルの詩をもとに、若きツェムリンスキーが書いた「デーメルの詩による幻想曲集」（1898）は、この作曲家の特色が明快に示されたピアノ小品集。なお、デーメルの詩には、ツェムリンスキーと同時代の作曲家たちも大いに触発された。

　マーラーを尊敬し、ツェムリンスキーに和声法の手ほどきを受けたアルノルト・シェーンベルク（1874-1951）は、後期ロマン派風の激しい作品から無調の音楽へと進み、ついには「12音技法」という新しい作曲システムを創始した。ピアノの小曲集をいくつか書いたシェーンベルクだが、この「6つのピアノ小品」（1911）は諸要素が極度に凝縮した、短い無調の曲の集合体である。彼の弟子のウェーベルンの作風を先取りした作品と言えるかもしれない。

　アルバン・ベルク（1885-1935）は、シェーンベルク、ウェーベルンとともに「新ウィーン楽派」を構成し、なかでもベルクは最も劇的な資質をはらんだ音楽を残し、彼が特にオペラで成功したのも頷ける。単一楽章の「ピアノ・ソナタ」（1907）は、若きベルクが書いた、唯一のピアノ曲。シェーンベルクがブラームスから継承したモティーフの緊密な発展と、希薄な調性感に彼独自の劇性が透けて見えるようだ。

　マーラーから天才と呼ばれ、神童の誉れ高かったエーリヒ・コルンゴルト（1897-1957）は、マーラーから勧められてツェムリンスキーに師事。20代で書いたオペラが大成功を収めるなど、楽都ウィーンでも順風満帆だったが、第2次世界大戦のナチスによるユダヤ人迫害のためアメリカに亡命。それを機に、もともと手掛けていた映画音楽のジャンルで一世を風靡し、彼の作品は現代に至るまで映画音楽の作曲家たちに大きな影響を与えている。この「4つの小さな楽しいワルツ」は、まだウィーンにいた14歳頃の作品で、各曲に彼の4人のガールフレンドの名がつけられ、コルンゴルトの粋なセンスが溢れている。ただし、生前は出版されず、作曲家の生誕100周年の1997年にようやく日の目を見た。