ジャン＝フィリップ・ラモー（1683-1764）はフランス・バロックを代表する作曲家。「和声論」を出版し、音楽理論を切り拓いた人物でもある。大器晩成で、50歳を過ぎてから数々のオペラで成功したが、この《新クラヴサン組曲集》は、円熟期に向かう頃に書かれた名作（クラヴサンとはチェンバロ／ハープシコードのフランス語名）。純粋器楽曲というよりは標題音楽的で、鄙びた心地よい響きの中に当時としては斬新な和音・色彩感が溢れている。本日は全8曲の中から6曲を抜粋でお届けする。

　ラモーの時代から約200年。精緻な音使いで近代フランスを代表する作曲家として活躍したモーリス・ラヴェル（1875-1937）。作曲者自身も語っているように、シューベルトの舞曲を手本として1911年に書かれた「高雅で感傷的なワルツ」は、8曲のワルツが切れ目なく演奏される。王政時代の空気を思わせる「高雅」な趣きが、ラヴェル一流の近代的な響きに彩られている。

　ロシア出身の作曲家イゴール・ストラヴィンスキー（1882-1971）は、ロシア・バレエ団（バレエ・リュス）を率いてパリを中心に興行していた大プロデューサー、ディアギレフから依頼され、1909年から翌年にかけてバレエ音楽《火の鳥》を作曲した。ストラヴィンスキーの才能には目を見張るものがあり、ロシアの民話を生き生きと体現するエネルギーとともに、鋭敏なリズム感や鮮明かつ色彩的な音の扱いなど、バレエ音楽に大変革をもたらす傑作を生み出した。今回は同曲終盤の音楽から、アゴスティの編曲により、カスチェイ一味が踊り狂う「魔王カスチェイの凶悪な踊り」、踊り疲れて眠る彼らに火の鳥が歌って聞かせる「子守歌」、そして王子がカスチェイを倒して大団円を迎える「終曲」を演奏する。

　セルゲイ・ラフマニノフ（1873-1943）は、作曲家であると同時に当時最高のピアニストでもあった。ロマンティックな作風を身上としたラフマニノフは、ロシア革命の混乱の折にアメリカに亡命、新天地でもコンポーザー・ピアニストとして活動を続けた。1941年、フィラデルフィア管弦楽団のために3曲からなる《交響的舞曲》を書いたが、これが最後の作曲作品となった。内容の豊かさ、リズム感、オーケストレーションに秀で、その活気やノスタルジックな味わいにモダンな響きが加味され、さらにはアメリカ風の洒脱なサウンドも聴くことができる。本日はバルナタン自身の編曲によるピアノ独奏版でお届けする。