J.S.バッハ（1685-1750）の《無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ》は、3曲ずつのソナタとパルティータで構成されており、1720年の日付がある清書譜が残されているため、おそらくそれ以前、バッハの器楽曲の名品が生まれたケーテン宮廷楽長時代前半の所産と考えられている。本日は鈴木大介によるギター版編曲でお届けする。

　全3曲のソナタの各楽章は舞曲名を持たず、いずれも4楽章構成で「緩／急／緩／急」の教会ソナタの形式をとり、第2楽章にはバッハの真骨頂ともいうべきフーガが置かれている。ソナタ第2番の第1楽章グラーヴェは、荘重な旋律が流れるように歌い、フーガを迎える序奏の役割を果たす。第2楽章フーガでは三重音や四重音が用いられ、ソナタ第1番のフーガに比べてより緻密で洗練された音楽になっている。第3楽章アンダンテは、重音を縫うように進む旋律の美しさに息を呑む。第4楽章アレグロは、16分音符の速いパッセージから繰り出される旋律がエコーのような響きを創り出す。

　パルティータ第1番は4つの舞曲に「ドゥブル」という変奏曲が付随する。また本曲では、ジーグが来るべき最終楽章にブーレ（ボレア）が置かれている。格調高い第1楽章はアルマンドとそのドゥブルに始まり、続く第2楽章はフランス語の「クーリール（走る）」に由来する舞曲クーラント（コレンテ）とそのドゥブル。第3楽章は16世紀スペイン発祥とされる荘重なサラバンドとそのドゥブル。第4楽章には17世紀フランス・オーヴェルニュ地方発祥の快速なブーレが来て、最後はそのドゥブルで曲を閉じる。

　ソナタ第3番のフーガの序奏となる第1楽章アダージョは、付点リズムによる神秘的な重音でゆっくりと始まる。第2楽章フーガの主題には、聖霊降臨祭の古いコラール《来たれ、聖霊よ、主なる神よ》の旋律が使われている。この354小節にも及ぶ長大なフーガは、バッハが遺したフーガのなかでも最長。第3楽章ラルゴは短いが、優雅な旋律を歌う。第4楽章は、軽快に駆けまわるアレグロ・アッサイ。

　パルティータ第3番には、軽快で明るい舞曲が並ぶ。第1楽章プレリュードは華やかに始まり、第2楽章ルールでは抒情的な旋律が美しく歌う。第3楽章ガヴォット・アン・ロンドーは単独で奏される機会も多い。第4楽章の親しみやすい第１メヌエットに続いて、第5楽章の柔らかな雰囲気の第2メヌエットが奏される。第6楽章は軽やかなブーレ、第7楽章はさらに快速なテンポのジーグとなり、組曲全体を締めくくる。