《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》は、モーツァルトの才気がみなぎる傑作として、クラシック音楽史上最も親しまれている作品の一つ。曲名はドイツ語で「小さな夜の音楽」を意味し、（歌劇《ドン・ジョヴァンニ》と同じ）1787年に作曲された。
　全4楽章で構成されており、「ソ・レ・ソ・レ」とユニゾンで力強く奏される第1楽章、夢見るような第2楽章ロマンツェなど、全体を通して明朗快活で、優雅さと均整の取れた美しさが際立っている。
　なお、本来は第2楽章に第1メヌエットが置かれ、「ロマンツェ」を中心としたシンメトリーな5楽章構成のセレナードとして設計されていた（当該部分の楽譜は散逸しており、その理由は不明）。

　パリ訪問から帰郷したモーツァルトが、1779年にザルツブルクで作曲。独奏ヴァイオリンとヴィオラが、オーケストラをバックに対等に語り合う「協奏交響曲」の形式をとっており、モーツァルトの弦楽器のための協奏曲における傑作の一つ。演奏時間も30分を超え、モーツァルトの協奏曲としては規模が大きい。
　最大の特徴は、普段は支え役に回るヴィオラが主役級の活躍を担い、その豊潤な響きが存分に活かされている点。全3楽章から構成され、2本の弦楽器とオーケストラが華やかに絡み合う両端楽章に対し、ハ短調の中間楽章にはモーツァルトが時折見せるアンニュイな魅力があふれている。

　モーツァルト後期のウィーン時代に書かれた6つの交響曲は、この第35番《ハフナー》に始まる。原曲は1782年、ザルツブルクの名門ハフナー家のジークムントが爵位を受ける際の祝典用に書かれた「セレナード」だった。実はモーツァルトは、1776年に同じハフナー家のエリーザベトの婚礼のために8楽章からなる「セレナード」を作曲しており、一般に「ハフナー・セレナード」として知られているのはこの旧作である。そのため、1782年のほうは「第2ハフナー・セレナード」とも呼ばれ、6楽章からなっていた。
　1783年の春、モーツァルトは自身の演奏会で披露する交響曲が必要となり、前年に作曲した「第2ハフナー・セレナード」から4つの楽章を選んで、交響曲に改編した。こうしてできたのが、交響曲第35番《ハフナー》である。初演は皇帝ヨーゼフ2世も列席するなか、ウィーンのブルク劇場にてモーツァルト自らが指揮して行なわれ、大成功を収めた。
　第1楽章は、単一主題による変則的なソナタ形式。2オクターヴに及ぶ力強い跳躍によって華々しく幕を開ける。第2楽章は、優美なアンダンテ。軽やかな足取りで2拍子を刻む。第3楽章は、ウィーン風の気品が香るメヌエット。中間のトリオでは、木管楽器が古風な音色を添える。第4楽章は、ロンド・ソナタ形式。第1主題は、初演されたばかりの歌劇《後宮からの誘拐》のアリアにもとづいており、熱狂的な盛り上がりのうちに全曲を閉じる。