20代前半、ワイマール時代（1708～17）初期の作品。この時期、バッハは自由な形式によるオルガン・鍵盤作品を数多く生み出したが、本作は小規模なトッカータのようなチェンバロ曲である。

　《イギリス組曲》（全6曲）は、ケーテン時代（1717～23）以前の所産とされる。タイトルに関しては、「さるイギリス貴族のために書かれた」というフォルケルによる逸話など諸説ある。《イギリス組曲》は冒頭に置かれた長大な前奏曲を特徴としているが、この第1番は前奏曲が短い代わりに、ドゥーブル付のクーラントが2つ配されている。曲調も軽やかな明るさに満ちており、他の5曲とは少しく毛並みを異にしている。

　カール・フィリップ・エマヌエル・バッハは、大バッハの次男。「フィリップ」は名付け親であるテレマンにちなんでおり、フリードリヒ2世の宮廷に仕えたことから「ベルリンのバッハ」とも呼ばれる。この《ヴュルテンベルク・ソナタ集》（全6曲）は、同宮廷に滞在していた若きヴュルテンベルク公カール・オイゲンに捧げたもので、1742～44年にかけて作曲された。ベルリンで書かれた第1番は、曲集中もっとも華やかで、多感（感情過多）様式とも言われるC.P.E.バッハらしさがよく表れている。

　正確な作曲年代は不詳だが、1703～09年頃の若書きのオルガン作品。息の長い自由な幻想曲に、後半はイミタツイオーネ（模倣曲）として4声のゆったりとしたフーガが続く。

　本作は17世紀イタリアの作曲家ジュゼッペ・トレッリのヴァイオリン協奏曲にもとづくとされてきたが、近年、ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲ニ短調RV813が原曲であると判明した。編曲はワイマール時代の1713～14年頃に行なわれたとされる。ちょうどこの時期、バッハが仕えていたワイマール公のヨハン・エルンスト公子が大量の印刷譜や写譜を抱えてオランダ留学から帰国した。そのなかにヴィヴァルディの作品が含まれていて、バッハはそれらを複数、編曲している。

　《フランス組曲》は1720～22年頃、ケーテン時代の作。明朗な雰囲気に満ちた第5番は全7楽章からなり、《フランス組曲》のなかでも演奏頻度が高い。冒頭を飾るのは、溢れんばかりの歌が魅力の「アルマンド」。そのあと、力強く疾走する「コレンテ」、優美な「サラバンド」、非常に短いがよく知られた「ガヴォット」、軽快な「ブーレ」、古拙の味わいが光る「ルール」が続き、歓喜が爆発する「ジーグ」で曲を閉じる。

　ヨハン・クリスティアン・バッハは、大バッハの末子（11男）で、バッハ一族のなかでも最もコスモポリタン的な性格が強い。ロンドンで活躍したため「ロンドンのバッハ」とも呼ばれる。ロンドンでは少年モーツァルトとも交流し、モーツァルトのピアノ・ソナタの華麗なギャラント様式は、彼からの影響とも言われる。作品5のソナタ集（全6曲）がロンドンで出版されたのは1766年。この第6番は曲集中、唯一の短調で、3楽章構成。第1楽章は序奏風のグラーヴェ、第2楽章アレグロ・モデラートは二重フーガ、第3楽章は悲しげな旋律が印象的なアレグレットで、最後にごく短いコデッタを経て終曲する。