1788年に出版されたが、作曲年は1766年説や1770年説などがあり、特定されていない。全楽章が型どおりのソナタ形式になっており、変イ長調という希な調性を用いながらも、愉悦感に満ちた聴きやすい作品である。
　第1楽章アレグロ・モデラートは、玉を転がすようなパッセージの連続がバロック風の趣をみせる。第2楽章アダージョの落着きある第1主題は、バッハを想わせるサラバンド舞曲風。一音一音を愛でるように奏でられる長大な緩徐楽章だ。第3楽章プレストでは16分音符が連続し、勢いが衰えることなく一気に進み、華麗なフィナーレをむかえる。

　ドビュッシーの作品で「映像」と名付けられた曲集は、全部で4つを数える。「ピアノのための映像」（第1集）、「ピアノのための映像」（第2集）、「管弦楽のための映像」、そして、死後に出版された「ピアノのための忘れられた映像」である。
　交響詩《海》を1905年に作曲していたドビュッシーは、そこで得た管弦楽法をピアノ書法にも転用する。第1曲「水の反映」は、繊細極まるパッセージが、太陽と水面が織りなす光と影の移ろいを見事に表現する。音楽における“印象主義”を決定づけた一曲だ。第2曲「ラモーを讃えて」は、バロック時代の和声の革命家ラモーへの賛歌。教会旋法が古への憧憬を表す。第3曲「運動」の「動き」は、何を表現しているのだろうか？　ブリリアントなテーマが印象的である。

　第2集では、管弦楽法に準拠したピアノ書法がいっそう顕著になる。常識的なピアノ記譜法には収まらない表現を目指して、この第2集では、ピアノ音楽で用いられる2段譜ではなく、3段譜が用いられた。
　第1曲「葉ずえを渡る鐘の音」では、静けさの中に響く教会の鐘の音を全音階、五音音階を使って表現している。第2曲「そして月は廃寺に落ちる」は、夜の深さを低音の揺らぎで、月の光の透明な輝きを高音の微弱な響きで描出。高低の音の融合が神秘的な静寂を生み出す。第3曲「金色の魚」は、日本の漆器盆に金粉で描かれていた二尾の鯉にインスピレーションを得たという。第1集の「運動」と同様に、素早いパッセージの技巧的な絡み合いが、戯れる魚を表現している。

　《テレーゼ》の愛称で呼ばれる本作は、のちに「不滅の恋人」ではないかと言われたピアノの弟子、テレーゼ・ブルンスヴィックに捧げられた。交響曲《運命》や《田園》を発表し、《皇帝》協奏曲などと同時代の作品で、《熱情》以来4年ぶりのピアノ・ソナタとなった。２つの楽章からなる短い作品ながら、音楽は新鮮さに満ちている。
　第1楽章アレグロ・マ・ノン・トロッポはソナタ形式。ベートーヴェンの時代としては、破格の嬰ヘ長調という調性で奏でられる冒頭4小節の優美さは、ロマン主義への助走とも言われる。第2楽章アレグロ・ヴィヴァーチェでは、ソナタ形式とロンド形式の融合が試みられている。デリケートな音づかいのなかにユーモアが顔をのぞかせ、女性への献呈を意識したかのようなソナタに仕上がっている。

　《月光》ソナタのような斬新なスタイルの作品を書いた一方で、田園趣味を生かした古典的なソナタも書いたベートーヴェンのバランス感覚が面白い。《田園》という愛称は、作曲者の死後、1838年にクランツ社の出版譜に付けられたもの。弟子のツェルニーによって、ベートーヴェンがことのほか第2楽章を愛奏していたというエピソードが伝えられている。
　第1楽章アレグロは、伝統的なソナタ形式を採用しているが、冒頭からテーマを3回も繰り返すあたりは、いかにもベートーヴェン的。第2楽章アンダンテは、スタッカートを駆使した優美で素朴な三部形式。時に翳りのある不穏なニ短調が現われる。第3楽章アレグロ・ヴィヴァーチェはスケルツォ。第4楽章アレグロ・マ・ノン・トロッポは、ロンド・ソナタ形式。オスティナート・バスが民族楽器のバグパイプを想わせ、第2楽章にも劣らないパストラーレ風が横溢する。快活なロンド主題も魅力的。16分音符の急速なパッセージで華麗に曲を閉じる。