JOURNAL

温故知新の粋をゆく21世紀型音楽祭

文・田中 泰

筆者撮影

筆者撮影

 2023年3月18日。「東京・春・音楽祭2023」が開幕した。東京の桜は例年よりも10日ほど早い3月14日に開花宣言が発せられ、青空に映える桜を期待していたところが、18日は生憎の雨模様。花粉症の身としては、雨によって花粉が洗い流されたスッキリ感をありがたく思いつつ、音楽祭の会場となる上野駅に降り立った。

 公園口改札付近で最初に目にとまるのが、音楽祭バナーと駅ピアノを取り巻く人だかりだ。改札から臨む桜色の装飾を施された東京文化会館の姿と相まって、音楽祭気分が一気に盛り上がる。今日から4月16日までの約1ヶ月にも及ぶ巨大音楽祭の幕開けだ。

 早速メイン会場となる東京文化会館を覗きに行くと、大ホール入り口脇には、今夜予定される「イタリア・オペラ・アカデミーin東京vol.3 リッカルド・ムーティによる《仮面舞踏会》作品解説」の公演バナーが設置されている。“音楽祭の顔”としてすっかり定着した巨匠ムーティによる貴重なトークは、さながら音楽祭の開催宣言のような趣だ。

 今年はおりしも上野公園開園150年の記念年。公園内を歩いていると、至るところで目に付くのが「上野恩賜公園開園150年」のバナーだ。その公園内に点在する各種文化施設がコンサート会場となるのも「東京・春・音楽祭」の楽しみの1つ。日本最古の博物館として知られる「東京国立博物館(1872年創立)」を筆頭に、「東京都美術館(1926年開館)」「国立西洋美術館(1956年開館)」&「上野の森美術館(1972年開館)」など、それぞれの魅力的な外観と醸し出される雰囲気からも歴史の重みが感じられる。通常のコンサートホールとは一味違う雰囲気の中で楽しむ音楽は格別だ。

筆者撮影

3/18ピアノ・デュオタカハシ|レーマン公演写真©︎高嶋ちぐさ

旧東京音楽学校奏楽堂/筆者撮影

そしてその1つに数えられる重要文化財「旧東京音楽学校奏楽堂(1890年建築)」が今日のコンサート会場であるのは嬉しい限り。この日本最古の洋式コンサートホールは、かつて滝廉太郎や山田耕筰&三浦環などが演奏を行った由緒ある舞台。会場内に足を踏み入れた瞬間から気分は非日常、ピアノ・デュオ・タカハシ/レーマンによるJ.S.バッハの《ブランデンブルク協奏曲(マックス・レーガー編曲によるピアノ4手版)》が、ことさら美しく響き渡る。

 音楽祭をより一層楽しむために手に入れたいのが、各会場で販売されている「東京・春・音楽祭 公式プログラム」だ。280頁にも及ぶこの冊子には音楽祭情報が満載。単なる曲目解説とは次元の違う読み物としての面白さによって、音楽祭や各コンサートがさらに楽しめること間違いなし。早速今日のプログラム頁を開いてみると「ドイツ音楽史上最大の作曲家は誰か?」という刺激的な文字が目に飛び込む。その答えは身長2m近いマックス・レーガー⁉ いやはや楽しい。

 コンサートの後は、自然の中で音楽を楽しむパブリックアート作品「エレン・リード サウンドウォーク」を体験したい。歩く場所や経路によって音楽が変化するのは前代未聞。150年の歴史を重ねた上野公園自体がコンサート会場であるかのような趣だ。これぞまさに“温故知新”。21世紀型音楽祭はこうありたい。

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