JOURNAL

アンサンブル・アンテルコンタンポラン2公演 楽曲解説


フランス発の超絶技巧集団アンサンブル・アンテルコンタンポラン(EIC)が、今年もハルサイにやってくる。毎年、EICでしか成しえないプログラムを最高レベルの演奏で届けてくれる楽団が、今年演奏する楽曲について解説を送ってくれた。日本人の作曲家も含むプログラムについて、彼らの言葉で聞いてみようーー。


4月4日[土]公演 アンサンブル・アンテルコンタンポランI

クルターグ©︎レンケ・シラージ, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

クルターグ:《サイン、ゲームとメッセージ》より

このプログラムは《サイン、ゲームとメッセージ》からの抜粋です。短い形式の作品を極めて精緻に作り上げる天才的な作曲家であり、今年、生誕100周年を迎えたばかりのクルターグへのオマージュでもあります。

《遊び》を意味するハンガリー語 Játékok は、クルターグの作品群の中でも最も頻繁に現れる言葉の一つです。このタイトルを持つ作品集は、1973年にピアノ学習のためのメソッドとして誕生しました。遊び心に富み、効果的で、かつ音楽的な教材であり、その構想はバルトークの《ミクロコスモス》をモデルとしています。

しかし年月を経て巻数が増えるにつれ、「遊び」は作曲者にとって次第に「日記のような記録」となっていきました。しかもその日記は、まだ閉じられていません。

「遊び」がピアノ(2手または4手)のために書かれているのに対し、《サイン、ゲームとメッセージ》は同じ精神を持ちながら、さまざまな楽器のソロあるいはアンサンブルのために書かれています。作品はスタイルも長さも多様で、音楽による手紙、トリビュート、あるいは演奏技法の愉快な実験など、さまざまな機会のために作られました。

鋭いピチカートとユーモラスなグリッサンド、あるいは慌ただしい弓の動きといったものの、戸惑うほどの連続が時として現れます。多くは音楽によるアフォリズムであり、思索への誘いでもあります。またいくつかの作品は、著名な友人や師を追憶したもので、ミニアチュール音楽による追想となっています。


岸野末利加©︎Keiko B Goto

岸野末利加:《オーカース》

1971年京都生まれの作曲家 岸野末利加は、日本で平 義久に師事した後、フランスに渡り、リヨン国立高等音楽院やパリのIRCAM(国立電子音響音楽研究所)などで学びました。

南フランスを旅する中で彼女はルシヨン地方を訪れ、風景を染めるオーカース(オークル=黄土色)の多様な色彩に魅了されます。赤、金、橙、紫へと移ろうその色調—先史時代の人類が洞窟壁画にも用いた天然顔料—が、このフルート、オーボエ、クラリネットの三重奏曲の出発点となりました。

三つの管楽器それぞれの音色は、作曲家にオークルとその変化した色彩を想起させます。ビスビリアンド、マルチフォニックス、グリッサンドなど多様な奏法を通じて、楽器の音響スペクトルが操作され、オークルの顔料が光を拡散し反射する様子が音響的な表現に移植されています。

遠くから絵画を凝視したり、あるいは近づいて詳細な色使いを見つめるように—この作品は素材に対し見事にズームイン、ズームアウトをしています。


岸野末利加:ノックス(金と銀)II

「ノックス」は、音の色彩やコントラスト、陰影に焦点を当てた作品群です。その中の「ノックス(金と銀)II」は、京都の俳人で思想家、風景画家でもある松永貞徳(1571–1654)の俳句に着想を得ています。そこでは、冬の夜景の中で「月の黄金」と「雪の銀」が織りなす対比の美が詠まれています。

作曲者によれば、「金色は仏教において至高の存在を象徴する色であり、金に次いで貴重な金属である銀との組み合わせは、結婚式や記念日などの祝祭でもよく用いられます。」

この作品では、木管のオーボエとクラリネットが「黄金」の音色として輝く光を放ち、弦楽四重奏が「雪」を表します。俳句と同様に、感受性の最深部に達する素材の純粋さから美が生まれます。


G.ベンジャミン:《小さな丘へ》

2006年に作曲家ジョージ・ベンジャミンが劇作家マーティン・クリンプと協働して作曲した作品で、ソプラノとコントラルトの二人の歌手とアンサンブルのための「二部からなる叙情的な物語」です。

物語は13世紀ドイツの有名な寓話「ハーメルンの笛吹き男」を自由に再解釈したもの。ツィンバロン(ハンガリーの打弦楽器)、バスフルート、バンジョーなど独特の音色を持つ楽器編成と、クリンプによる鋭いテキストによって、魅惑的で妖しいミニアチュール・オペラとなっています。

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4月5日[日]公演 アンサンブル・アンテルコンタンポランII

クルターグ:ある小説からの15の情景 op.19

題名からの想像に反して、小説ではなく、詩人リンマ・ダロシュの詩による歌曲集です。15篇の詩が、一人称の語り手による愛の物語――しばしば痛みを伴う物語――を描き出します。

ロマ音楽のアンサンブルを思わせる小編成の伴奏によって、断片とミニアチュールの中間のような短い旋律が連なり、言葉や音では表現しきれない絶望を表現しようと試みます。


W.リーム©︎Hpschaefer, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

W.リーム:符帳

1982〜1988年に作曲された「符帳」は、進行中の一つのプロジェクトの中の独立したパートを形成します。連なる音の記号は、たいていの場合鋭い輪郭を持っていて、ヒエログリフや楔形文字、あるいは異国の記号、より正確には音に内包された記号です。これは音による「書記」であり、絶対的な音楽であり、物語ではありません。

ピアノは独奏楽器のように扱われ、打鍵そのものが音に「書き込み」をし、その空隙が何もない音空間を表現します。

「符帳Ⅰ」では、極端な音域でのピアノの早い打鍵の繰り返しと、他の楽器によるダイナミックな響き、濃密な音響、メロディアスなパッセージが展開されます。

「符帳Ⅵ」は、シューベルトの管弦八重奏曲の、「苦悩」とまではいわないまでも、「暗い」カウンターパートであると考えています。

「符帳Ⅷ」について作曲者は「暗い音響から生まれ、気まぐれに高ぶって始まり、また落ち込む」。響きは黒、灰色、緑の彫像、すなわち、攻撃にも、記憶にも、撤回にも、期待にも動じない、ずんぐりとした「何か」として捉えられる。」と語っています。「何もはっきりしていない。境界領域なのだ」と。


O.ノイヴィルト:フォンダメンタ II

作曲家オルガ・ノイヴィルトは、ヴェネツィアに常に新鮮な魅力を感じています。それは部分的には、同地出身の作曲家ルイジ・ノーノへの敬愛とも関係しています。

この作品は、ヴェネツィアの墓場の島、サン・ミケーレ島に眠る詩人でノーベル賞作家のヨシフ・ブロツキーへのオマージュです。独特のドラマチックな流儀で潮が満ち引きする水の都のイメージが音楽に刻まれています。ヴェネツィアの作曲者は「純粋に視覚的なインスピレーションだ。ヴェネツィアでは時として波は水面を乱すことなく、湿った岸や路地をただ輝かせる。人はそのことを突然知るのだ。この曲の音楽的幻影は、水がもたらすこうした曖昧なイメージを響かせている」と語っています。


R.サンダース:息吹 II

原題のHauch は、ドイツ語で「痕跡」「気配」「ほのかなニュアンス」などを意味します。物そのものではなく、その気配や影、表面下に潜む一瞬の反射のようなものです。

ヴィオラの低音弦の最高音域を中心に、きわめて繊細な音色の変化を探る独奏曲で、沈黙の奥から旋律の断片が糸のように引き出されます。表面、重量、演奏者のタッチ。それ自身が静寂の中から音を引き出しているようなヴィオラの弓。これ以上ない弦のタッチの微妙な違い。肩甲骨の間の筋肉の緊張。演奏者の控えめなインスピレーション。音に隠れた肉体。重さを感じ取れる音。本質を探究できる音。


R.サンダース:blaauw / sinjo(ブラウ/シニョ)

レベッカ・サンダースは、演奏者と密接にコラボレーションしながら作曲をします。この作品は、タイトルが示すとおり、アンサンブル「ムジークファブリーク(MusikFabrik)」のトランペット奏者マルコ・ブラウ(Marco Blaauw)との共同作業から生まれました。彼らは「スプリット・トーン」と呼ばれる特殊奏法を研究しました。唇が異なる周波数で振動することで、複数の倍音が同時に鳴るマルチフォニック効果を生み出す古くからある技法です。

作品では、このスプリット・トーンによる密度の高い(時としてノイジーな)音色と、ミュートを使った純粋で透明な音(高音のE)との対比が重要な要素となっています。楽器の音色の探究は、ブラウがオランダ語でブルーであるという事実も反映しています。実際サンダースはライナーノーツでワシリー・カンディンスキーやデレク・ジャーマンに言及しています。

一方、ベリオのトランペットのためのセクエンツァⅩなどでは、楽曲はピアノの内部で吹かれます。ベリオの場合はピアノのサスティン・ペダルが踏み込まれたままになっており、全弦と共鳴板が共鳴し、途切れのない音風景が作り出されます。

もともと「ブラウ」は二つのベルの切り替えができるダブルベル・トランペット(朝顔部(ベル)が二つあるトランペット)で演奏されました。しかしながらレベッカ・サンダースはベルが一つのトランペットのために、別のバージョンを作曲しました。題は「ブラウ/シニョ」で、シニョはブルガリア語でブルーを意味します。このバージョンを制作したのがアンサンブル・モデルンのトランペッター、サヴァ・ストイアノフで、ブルガリア人だったためです。

原典:ルーカス・リパリ=マイヤー

抜粋:ジェレミー・スピルグラス

関連公演

アンサンブル・アンテルコンタンポラン I

日時・会場

2026年4月4日 [土] 19:00開演(18:30開場)
東京文化会館 小ホール

出演

アンサンブル・アンテルコンタンポラン
 ヴァイオリン:ジャンヌ=マリー・コンケカン・ヘスン
 ヴィオラ:オディール・オーボワンジョン・ストゥルツ
 チェロ:エリック=マリア・クテュリエルノー・デジャルダン
 コントラバス:ニコラ・クロス
 フルート:ソフィー・シェリエ
 オーボエ:フィリップ・グラウフォーゲル
 クラリネット:ジェローム・コントマルタン・アダメクアラン・ビヤール
 トランペット:ルーカス・リパリ=マイヤークレマン・ソーニエ
 トロンボーン:ルーカス・ウニシ
 ツィンバロン:オーレリアン・ジニュー
指揮:ピエール・ブルーズ
ソプラノ:ジェニー・ダヴィエ
コントラルト:ジョアン・エヴァンス

曲目

クルターグ:《サイン、ゲームとメッセージ》より
 悲しみ
 カレンツァ・ジグ
 影
岸野末利加:オーカース
クルターグ:《サイン、ゲームとメッセージ》より
  J.S.B.へのオマージュ
J.S.バッハ=クルターグ:キリストよ、汝 神の小羊 BWV619
岸野末利加:ノックス(金と銀)II
クルターグ:《サイン、ゲームとメッセージ》より
 ジョン・ケージへのオマージュ
 B.P. モンダシナクに捧ぐ
 イロナ・ロジュニャイの思い出に
G.ベンジャミン:《小さな丘へ》(日本初演)

料金

全席指定:¥8,500 U-25:¥2,000 ネット席:¥1,500

アンサンブル・アンテルコンタンポラン II

日時・会場

2026年4月5日 [日] 19:00開演(18:30開場)
東京文化会館 小ホール

出演
<

アンサンブル・アンテルコンタンポラン
 ヴァイオリン:ジャンヌ=マリー・コンケカン・ヘスン
 ヴィオラ:ジョン・ストゥルツ
 チェロ:エリック=マリア・クテュリエルノー・デジャルダン
 コントラバス:ニコラ・クロス
 クラリネット:アラン・ビヤールマルタン・アダメク
 ファゴット:マルソー・ルフェーヴル
 ホルン:ジャン=クリストフ・ヴェルヴォワット
 トランペット:ルーカス・リパリ=マイヤー
 トロンボーン:ルーカス・ウニシ
 ピアノ:セバスティアン・ヴィシャール
 ツィンバロン:オーレリアン・ジニュー
指揮:ピエール・ブルーズ
ソプラノ:ジェニー・ダヴィエ

曲目

O.ノイヴィルト:フォンダメンタ II
クルターグ:ある小説からの15の情景 op.19
W.リーム:符帳 I
R.サンダース:息吹 II
W.リーム:符帳 VI
R.サンダース:blaauw / sinjo(ブラウ / シニョ)
W.リーム:符帳 VII

料金

全席指定:¥8,500 U-25:¥2,000 ネット席:¥1,500

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