マックス・レーガー（1873-1916）は後期ロマン派の作曲家らしく、重厚な和声や複雑な対位法を用いた曲を様々なジャンルに残した。スタイル的には総じてブラームスを継承する保守的な傾向を示すが、この「６つのワルツ」（1898年）も、まさにブラームスの「ワルツ集」に通じるロマンティックで豊かな雰囲気に溢れている。

　華麗でメランコリックな世界を音楽で築いたピョートル・イリイチ・チャイコフスキー（1840-93）。本日取り上げられる「三大バレエ」は、従来の踊りを引き立てるだけだったバレエ音楽に新たな価値とクオリティを付与し、バレエそのものを総合芸術に押し上げる一助となった作品群で、チャイコフスキーの諸作の中でも最高の成果の一つとされる。
　《白鳥の湖》（1877年初演）の第3幕に登場する「ロシアの踊り」は、ヴァイオリンを主体とした緩やかな曲調が次第に熱狂へと転じていく。
　《白鳥の湖》を失敗作と思い込んでしまい、次作《眠れる森の美女》（1890年初演）の初演までに10年以上を要したが、その第1幕で踊られる有名な「ワルツ」は、弦楽器が奏でる艶やかなメロディが、華麗な管楽器により装飾されながら徐々に高揚していく。
　チャイコフスキー最後のバレエ音楽《くるみ割り人形》（1892年初演）は、作曲家の筆が冴え渡った傑作。異世界の趣を密やかに醸す「金平糖の踊り」では、ニューヨーク滞在中に発見したチェレスタの妙音が存在感を示し、フルート合奏で奏でられる「葦笛の踊り」は可愛らしい夢のような世界を描く。楽想の豊かさ、華やかさが宙を舞う「花のワルツ」は、効果的なオーケストレーションと相まって〝メロディメーカー〟チャイコフスキーの面目躍如たる一曲。

　チェコ音楽の祖とされるベドルジハ・スメタナ（1824-84）は不屈の作曲家であった。彼は聴覚が失われた1874年から79年にかけて、チェコ人の精神の源ともいうべき、自国の風土や歴史を描いた交響詩《我が祖国》（全6曲）を作曲。なかでも最も有名な「モルダウ」は、プラハを流れるヴルタヴァ川（「モルダウ」はドイツ語名）が、水源から大河となっていく様子や、岸辺での人々の踊り、神秘的な月光などを情感豊かに描いている。

　フランス近代音楽を代表する作曲家モーリス・ラヴェル（1875-1937）は「管弦楽の魔術師」とも渾名されたが、「亡き王女のためのパヴァーヌ」（1889年）はピアノ独奏のための小品。甘美なメロディが変奏されるなか、蜜のように甘く優しい叙情が紡がれていく。「ラ・ヴァルス」（1920年）は〝ザ・ワルツ〟のフランス語。19世紀ウィーンの古き良きワルツへの憧憬を旨とし、ラヴェルならではの精緻な音の奔流のなか、ワルツの断片が浮かんでは沈み、高揚を繰り返したのち、最後はカタストロフが訪れる。