BWV910～916までの7曲のトッカータはワイマール時代もしくはそれ以前の作と推測され、若きバッハの情熱を伝える貴重な作品群である。BWV914は7曲の中では最も短く、1710年頃の作とされる。全体は4部で構成され、個性的なモチーフの序奏に始まり、第1フーガは優雅な二重フーガ、間奏部のアンダンテでは強い感情が表出され、その印象を引き継ぎながら三声の鮮やかな第2フーガで締めくくる。

　ルイ14世に仕えたフランス・バロック時代の巨星フランソワ・クープランの《クラヴサン曲集》（全27組曲）は1713～30年までに4巻に分けて出版された。第1巻では、全72曲が5つの組曲（オルドル）に収められ、各曲には舞曲名やエスプリのきいた標題が付けられている。18世紀フランス・クラヴサン音楽の頂点を築く曲集であり、組曲といってもバッハのように構築された完結性は持たず、言わば珠玉の名品が集められた宝石箱を覗くような印象である。

　F.クープランと並んでフランスのバロック音楽を代表するジャン＝フィリップ・ラモーは、ルイ15世の治世に活躍した。その後半生はオペラに捧げられており、クラヴサン作品が書かれたのは、下積み時代とも言える前半生のこと。クラヴサン曲集の2巻目、《運指のメソード付きクラヴサン曲集》は1724年に出版された。ラモーは機能和声を最初に体系化した音楽理論家としても知られており、クラヴサン作品における旋律や展開のダイナミズム、斬新さは今なお色褪せていない。

　ルイ14世の治世に、マラン・マレと並んでフランスのヴィオル（ヴィオラ・ダ・ガンバ）界を代表するヴィルトゥオーゾとして知られたのが、アントワーヌ・フォルクレ。彼が作曲した30曲ほどのヴィオル作品は生前には出版されなかったが、息子のジャン＝バティスト・フォルクレによって、父アントワーヌ没後の1747年、全32曲（うち3曲はジャン＝バティストのオリジナル）が5つの組曲にまとめられて世に出され、さらにジャン＝バティストによってクラヴサン独奏用にも編曲された。

　フランス革命の口火を切ったバスティーユ襲撃（1789年7月14日）の翌日に没したジャック・デュフリは、フランス王朝文化とともに生涯を終えた作曲家。その晩年には、すでにクラヴサンはピアノへと鍵盤楽器の主座を明け渡しつつあった。デュフリは《クラヴサン曲集》を4巻出しており、第3巻（全17曲）は1756年の出版。音楽史的には、バロックから古典派への過渡期にあたり、クープランやラモーの伝統を受け継ぎながらも、独自のスタイルが追究されている。

　ジョゼフ＝ニコラ＝パンクラス・ロワイエはルイ15世に仕えた音楽家。王家の子女のクラヴサン教師を務め、コンセール・スピリチュエルの運営にも関わった。オペラ作曲家として華々しく活躍したが、今日それらの作品は上演機会に恵まれておらず、1746年に出版された《クラヴサン曲集》第1巻（全14曲）が彼の代表作となっている。自身のオペラからの編曲も多く、とくに曲集の最後を飾る「スキタイ人の行進」は、華麗な技巧から今でも演奏機会が多い人気曲である。