フィリップ・マヌリは「ブーレーズ以降もっとも注目されている」フランスの現代音楽作曲家。ライヴ・エレクトロニクスの先駆者として知られ、親日家で日本との縁も深い。本曲は1994年に作曲されたピアノと17楽器のための室内楽作品で、アリオン音楽財団〈東京の夏〉音楽祭の委嘱による。核となる音を中心に鏡のように構成されており、パッサカリアの基本主題がこの音に対してシンメトリックに提示される。その主題が何度も変形していく過程で、次第に歪んだ鏡のなかに映し出されていく。

　この歌曲集は、ベリオが米オークランドのミルズ・カレッジに作曲科教授として赴任していた1964年、同カレッジの委嘱で作曲され、当時、妻であった声楽家キャシー・バーベリアンに捧げられた。声楽と7人の器楽奏者という編成だが、曲によって組み合わせが異なる。各国の民謡が11曲並び、それぞれの国の言葉で歌われる。第1、第2曲は、アメリカの作曲家で民謡（バラード）収集家ジョン・ジェイコブ・ナイルズによる。第3曲はアルメニア、第4曲はフランス、第5曲はシチリア、第6、第7曲のイタリアはベリオ自身の作品。第8曲はサルディニア、第9、第10曲のオーヴェルニュの歌は、カントループの歌曲集《オーヴェルニュの歌》にも収められている。そして最後は威勢のいいアゼルバイジャンの恋歌で締めくくられる。

　1969年、音楽出版の老舗ユニヴァーサル社で長年活躍したアルフレート・カルマスの80歳を記念して11人の作曲家が短いスコアを捧げた。ブーレーズはフルート、クラリネット、ピアノ、ヴィオラ、チェロの編成による小品を作曲。2001年に「即興曲 − カルマス博士のための」のタイトルのもとに改訂され、決定稿は2005年、ブーレーズの80歳の年に出版された。
　「ル・マルトー・サン・メートル」は、1953～55年にかけて作曲されたブーレーズの出世作。1955年の初演時からリゲティ、アドルノ、ストラヴィンスキーらの称賛を浴びた。全9楽章からなり、テクストにはルネ・シャールがシュルレアリスム運動に携わっていた頃の詩集『ル・マルトー・サン・メートル』（主〈あるじ〉なき槌）から採られた3つの詩が用いられている。3つの詩（「怒る職人」「美しい建物とさまざまな予感」「孤独な死刑執行人たち」）は、それぞれ前奏、後奏、変奏、補遺などを従えて入り組んだ構造をなし、音楽的には新ウィーン楽派から継承した緻密な構成と、フランス伝統の観念的な要素を統合している。ブーレーズ自身も認めているように、シェーンベルクの《月に憑かれたピエロ》の影響を受けており、アルトと6楽器という特殊な編成、曲ごとに異なる楽器編成、全曲が3つの系列に分かれている点などにその反映が認められる。