クロード・ドビュッシー（1862-1918）は、自作を「印象主義」と評されることを嫌ったが、従来の和声ルールや形式から解放されたように自由に浮遊するその音楽は、やはり当時の美術などの歩みと同期していた。
　イタリアのベルガモ地方を巡った印象をタイトルとした、全4曲からなる《ベルガマスク組曲》はドビュッシー初期の作品だが、夢のように美しいメロディと和声の色彩感からは、のちに開花する資質が十二分に感じられる。なかでも「月の光」は、静謐な幻想味にあふれた、ドビュッシー屈指の名曲。
　1903年に書かれた《版画》において、ドビュッシーは一段と飛躍する。驚くべき創造性を用いて、訪れたことのない場所の情景を、精緻な音使いやピアノ技法、多彩な色合いで描き出している。五音階の旋法をポリフォニックに扱ったエキゾチックな「塔」、ハバネラのリズムでスペインの情緒を浮かび上がらせる「グラナダの夕べ」、フランスの童謡をベースに、降りしきる雨が即興的に変化する「雨の庭」の3曲からなる。
　「喜びの島」は、この作曲家には珍しいヴィルトゥオーゾ・ピースで、高度なピアノ技巧が大きな表現力を生む。ヴァトーの名画「シテール島の乗船」に想を得たとされ、華やかな愛の喜びが縦横に放射される。
　クララ・シューマン以来の名女性作曲家と評されるのが、フランス人のセシル・シャミナード（1857-1944）。恵まれた環境で育ち、その才能をビゼーに見出され、様々なジャンルの曲を残した。なかでもサロン的なピアノ曲に力量を発揮し、のびやかで洒落た空気の横溢する本曲「スカーフの踊り」は大ヒットした（イギリスの香水会社によって、その名を付した石鹸が発売された）。
　ジョルジュ・ビゼー（1838-75）といえば、まずは歌劇《カルメン》、次いで《アルルの女》が有名。後者は作家ドーテーの戯曲の劇音楽として書かれたものだが、今日、全曲が演奏されることはあまりなく、2つの組曲が頻繁に取り上げられている。誰しも聞き覚えがあるであろう「序曲」（第1組曲「前奏曲」）は、リズミカルで勇壮なテーマとその変奏に始まり、一転して悲痛で静かな部分を経て、苦悩に満ちた劇的なクライマックスへ向かう。「メヌエット」は、もとの組曲の第1組曲・第2曲に置かれているもので、素朴な味わいと祝いの空気に満ちている。
　エマニュエル・シャブリエ（1841-94）といえば、狂詩曲《スペイン》が有名だが、彼が自身の才を最も発揮したのはピアノ曲だった。1881年に書かれた《絵画的小品集》も優れた作品で、第1曲「風景」は絶え間ない転調とともに豊かな色彩感があふれ出す。
　「亡き王女のためのパヴァーヌ」は、モーリス・ラヴェル（1875-1937）の初期を代表する名作。1889年、シャブリエに傾倒していた頃に書かれたとされるが、ラヴェル独自の甘美なメロディが変奏されるなか、豊潤でアンニュイな雰囲気が紡ぎ出されていく。