《無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ》（全3曲）は、器楽曲の名品が生まれたケーテン宮廷楽長時代前半の作と考えられている。

　第3番には、軽快で明るい舞曲が並ぶ。第1楽章プレリュードは華やかに始まり、第2楽章ルールでは抒情的な旋律が美しく歌う。第3楽章ガヴォット・アン・ロンドーは有名な曲で、単独で奏される機会も多い。第4楽章は親しみやすい旋律の第１メヌエット、第5楽章には柔らかな雰囲気の第2メヌエットが続く。第6楽章は軽やかなブーレ、最後の第7楽章には快速なテンポのジーグが置かれている。

　第1番は、基本となる4つの舞曲にそれぞれ「ドゥブル」という変奏曲が付く。また、ジーグが来るべき最終楽章にはブーレが置かれている。格調高い第1楽章はアルマンドとそのドゥブルに始まり、続く第2楽章はフランス語の「クーリール（走る）」に由来する舞曲クーラント（コレンテ）とそのドゥブル。第3楽章は16世紀スペイン発祥といわれる荘重なサラバンドとそのドゥブル。そして第4楽章には17世紀フランス・オーヴェルニュ地方発祥といわれる快速なブーレが来て、最後はそのドゥブルで曲を閉じる。

　第2番の演奏機会が際立って多いのは、ひとえに第5楽章に置かれた「シャコンヌ」の魅力による。第4楽章までは、伝統的舞曲の定型で進み、全体のボリュームとしてはこれらが前半に相当する。そして後半を占めるのが、3拍子系の古い舞曲を出自とするシャコンヌである。シャコンヌの圧倒的な規模、美しさ、崇高さは、この《無伴奏ヴァイオリン》曲集の真価を象徴しているといっても過言ではない。冒頭で呈示される8小節の主題が、4小節ずつ前後半に分かれて同じ和声進行を繰り返し、さらにその8小節の主題が30回にわたって変奏される。舞曲という枠組みをはるかに超えた音による建築物ともいえる世界が、一挺のヴァイオリンによって形づくられていく。

　「ソリストが協奏曲を演奏したあとに弾くアンコール・ピースを」という辻󠄀彩奈からの委嘱を受けて、2019年に3曲の小品（I、II、III）が作曲された。各曲は通常、独立して演奏されるが、3曲まとめて1つの作品としても演奏可能。それぞれ異なる性格を持っており、「I」はベルクや武満徹、「II」はシベリウスやブラームス、「III」はメンデルスゾーンやチャイコフスキーといったふうに、相性のよい協奏曲が想定されている。2019年にまず「III」のみが初演され、2020年に辻󠄀彩奈によって全曲が初演された。