「花」は、瀧廉太郎の歌曲集《四季》（全4曲）の第1曲で、明治33年の作。隅田川の穏やかな春の情景を歌った文語調の歌詞は、国文学者で歌人でもあった武島羽衣（たけしま はごろも）による。
　北原白秋の詩集から21編を選んで作曲された歌曲集《日本の笛》は、情緒あふれる名作。「びいでびいで」はその第8曲。「びいでびいで」は南洋諸島に咲く花で、南洋桜とも呼ばれる「ムニンデイコ」のこと。
　「朧月夜」は大正3年初出の文部省唱歌。春の淡い月夜が、洗練された日本語で歌われる。作曲者の岡野貞一は鳥取県出身。国文学者でもあった高野辰之とのコンビで唱歌の名作を多数残した。
　初夏の風物を歌った「夏は来ぬ」は、明治29年に発表された唱歌。詞は万葉集研究でも知られる歌人の佐佐木信綱。作曲は瀧廉太郎の師でもあった小山作之助。
　東京出身の現代作曲家・木下牧子による抒情小曲集《月の角笛》（全12曲）は、平成11年の出版。「夕顔」はその第4曲で、金子みすゞの詩に付曲。平易な日本語で紡がれた詩の世界を優しいメロディで表現している。
　「竹田の子守歌」は、京都の同和地区に伝わる子守歌で、昭和46年、フォークグループ「赤い鳥」が歌ってヒットした。
　「里の秋」は、復員してくる父の無事を願う健気な母子を歌っている。小学校教諭だった斎藤信夫が書いた「星月夜」という詩の歌詞を改めて「里の秋」とし、童謡作曲家・海沼實が付曲。昭和20年のラジオ放送で反響を呼んだ。
　「歌を忘れたカナリヤ」は大正8年、曲付きの童謡としては初めて児童雑誌『赤い鳥』に発表された。このタイトルに改められたのは昭和22年。作曲者の成田為三は、本格的なクラシックの作曲家でもあった。
　「ねむの花」は昭和28年、中田喜直が歌手・四家文子のために書き下ろした曲。夜には葉が合わさって閉じ、眠るように見えることから「ネムノキ」という和名がつけられた。壺田花子の詩は、やさしい眠りに誘うように、その淡い花色を表している。
　木下牧子の女声・同声合唱のための10のメルヘン《愛する歌》は、平成7年の出版。「海と涙と私と」はその第3曲。どこか寂しげな世界を描いた歌詞は、『アンパンマン』の生みの親やなせたかしによる。
　「このみち」は、吹奏楽や声楽の分野で知られる作曲家・伊藤康英が、金子みすゞの詩に付曲。みすゞがこの詩を書いたのは、結婚した大正15年。当初は希望にあふれていた結婚生活もやがて不幸な結末をむかえる。
　ウェールズ出身の作曲家アレックス・ミルズの歌曲集《My Lost Love》は2022年、カウンターテナーとピアノのために作曲。小倉百人一首から採られた4つの歌にはそれぞれ春・夏・秋・冬が反映されている。
　文豪・佐藤春夫の「しぐれに寄する抒情」は、大正15年初出の詩。濃厚なロマンティシズムを感じさせる同詩には、多くの作曲家が付曲しているが、本作は著名な作曲家（大中寅二）を父に持つ大中恩（おおなか めぐみ）による。
　「赤い花白い花」を作詞作曲したのは、銅版画家の中林三恵。この曲を口伝えに聞いたフォークグループ「赤い鳥」が昭和45年、シングルB面曲としてリリース。その後ラジオ番組での呼びかけを経て、真の作者が判明したという。
　「霧と話した」は、数々の名曲を残した中田喜直が昭和35年に作曲。しっとりとしたメロディが印象的。作詞の鎌田忠良はノンフィクション作家・評論家で、霧のように謎めいた歌詞となっている。
　「南天の花」は、昭和24年の作。長崎で被爆した医師・永井隆の詩に、山田耕筰が付曲。生き延びた自宅の南天の花に、亡き妻のおもかげをみる。深い悲しみがさり気なく歌われている。
　「めぐり逢い」は、昭和43年公開の東宝映画『めぐりあい』の主題歌として武満徹が作曲。俳優・歌手としても活躍していた荒木一郎が詞を書き、自身で歌った。武満の歌のなかでも、かなりポップス寄りの作品となっている。
　「さとうきび畑」は、寺嶋尚彦が本土復帰前の沖縄を訪問した際に想を得て書かれた。夏のさとうきび畑を吹き抜ける「ざわわ」という風の音が印象的に繰り返される。実際の歌詞は11番まである。