シューベルト：ヴァイオリン・ソナタ
　このソナタは、シューベルトが1816年に作曲した3曲のソナチネ（D384, 385, 408）に次ぐ作品で、翌17年にさらに規模の大きな作品として構想された。ヴァイオリンとピアノが対等に絡み合うことから「二重奏曲（Duo）」とも呼ばれ、 4つの楽章から構成される。
　「第1楽章 Allegro moderato」はソナタ形式。ピアノの付点リズムに乗せて、ヴァイオリンが流暢なメロディを奏でる。「第2楽章 Scherzo：Presto」は活発なスケルツォ。中間部ではホ長調からハ長調に転じ、穏やかな半音階的旋律が現れる。「第3楽章 Andantino」は、シューベルトらしい歌心を堪能できる緩徐楽章。「第4楽章 Allegro vivace」は、ヴァイオリンとピアノが楽しく掛け合う、喜びにあふれたフィナーレ。

ドビュッシー：ヴァイオリン・ソナタ
　ドビュッシーは最晩年に様々な楽器のための6つのソナタを計画したが、それらは結局、3曲しか完成しなかった。本作は死の前年1917年の作で、ドビュッシーにとって生涯最後の作品となった。第一次世界大戦末期、荒廃した世相と迫りくる自らの死に対峙しつつも、そこから解き放たれるように自由な旋律が紡がれていく。
　「第1楽章 Allegro vivo」はおもに3つの部分からなるが、冒頭でピアノに導かれて始まるヴァイオリンの旋律は情熱的でありながら、どこか憂いを帯びている。「気まぐれで軽快に」と指示された「第2楽章 Intermezzo」は、夢想的で軽やかな雰囲気のなか進む。「第3楽章 Finale」は、ヴァイオリンの速いパッセージが連続し、即興演奏のような自由さを見せつつ、終結部へと熱量を増していき、曲を閉じる。

フランク：ヴァイオリン・ソナタ
　1886年に作曲されたフランク唯一の「ヴァイオリン・ソナタ」は、豊かな和声、循環形式、そして感動的なメロディを持つ傑作として知られる。ベルギーの名ヴァイオリニスト、ウジェーヌ・イザイに献呈され、イザイによって初演された。
　全4楽章で構成され、フランクが得意とした（全ての楽章に共通の主題が現れる）循環形式を用いることで、作品全体に統一感が付与されている。「第1楽章 Allegretto ben moderato」の冒頭で、落ち着いたピアノの分散和音に乗って、ヴァイオリンが主要動機を深々と奏でる。内省的な対話が続くこの楽章では循環主題が提示され、ソナタ全体の基調が築かれると同時に、嵐の前の静けさのように、その後の劇的な展開を予感させる。「第2楽章 Allegro」は、一転して激しく、劇的な様相を呈す。情熱的なピアノのオスティナートと、ヴァイオリンの技巧的なパッセージが交錯する。緊迫感のある音楽が展開され、演奏には高度な技巧が求められる。「第3楽章 Recitativo-Fantasia. Ben moderato」は、自由な形式を持つレチタティーヴォとファンタジアからなる緩徐楽章。輝かしく希望に満ちた「第4楽章 Allegretto poco mosso」は、ヴァイオリンとピアノによるカノンで始まり、幸福感に満ちた主題が交互に繰り返される。最後は全曲を彩ってきた循環主題が堂々と回帰し、圧倒的なフィナーレを形づくる。