19世紀フランス象徴派の詩人マラルメの詩「半獣神の午後」にインスピレーションを得て、1892～94年に作曲され、まさに時代を画する作品となった。本日演奏されるピアノ独奏への編曲は、イギリスのコンサート・ピアニスト、レナード・ボーウィックによる。

　大正から昭和初期にかけての西洋音楽受容期に、日本音楽界へ多大な貢献を果たした山田耕筰は多くのジャンルに作品を残したが、その中にピアノ独奏作品が数多あることはあまり知られていない。特に1914～17年は「ピアノの時代」と言えるほど集中的にピアノ曲を作曲した。この《彼と彼女》（1914）は、創作への行き詰まりを感じていた山田にとって、独自の音楽表現を獲得する転換点となったばかりでなく、音による「舞踊詩」というジャンルを生じさせる契機となった作品でもあった（当時はまだ「舞踊詩」という言葉は発案されておらず、単に「ポエム」とされている）。

　ストラヴィンスキーの3大バレエ音楽の1つ《ペトルーシュカ》は1910～11年にかけて作曲された。「ペトルーシュカからの3つの断章」は、1921年にアルトゥール・ルービンシュタインの依頼により、作曲者自身がピアノ独奏用に編曲したもので、有名な「ロシアの踊り」をはじめ、「ペトルーシュカの部屋」、「謝肉祭」の3曲からなる。

　1915年、《彼と彼女》に続く「舞踊詩」として《若いパンとニンフ》が作曲された。本作はユーモアが加味された作品に仕上がっており、パン（牧神）とニンフ（妖精）の性格や動きが見てとれるようである。

　1837～38年に書かれた作品33は4つのマズルカからなる（「マズルカ」はポーランドの伝統的な舞踊曲）。メスト（寂しげに）と指定された第1曲は、短いが物憂げな可愛らしさがある。一転して明るい第2曲は、ショパンのピアノ曲を集めて編曲したバレエ作品《レ・シルフィード》にも用いられている。第3曲はセンプリーチェ（素朴に）という指定だが、この曲をショパンがマイヤベーアに弾いて聴かせたところ、拍子について口論が起きたという。三部形式の第4曲は曲集のなかで最も規模が大きい。何度も繰り返されるロンド主題が強い印象を残す一方、中間部には優しげな旋律が流れる。

　スイスの作曲家エミール・ジャック＝ダルクローズは、音楽教育の分野では著名で、リトミックの開発者として知られる。演奏機会の少ない作品8の「3つの小品」から、本日は自由で優雅なワルツをお届けする。

　「京の四季」（1916）は邦楽の端唄による編曲作品。和洋折衷の極みであり、欧米人でも楽しめるようリズムや音程が整理されている。「Fox Dance」（狐の踊り）は1918年、舞踊家・伊藤道郎のアメリカ公演のために書かれた。「春夢」は1934年の作。《彼と彼女》からちょうど20年を経て、再び「ピアノの時代」に立ち戻ったような、シンプルさと静謐さを湛えている。