JOURNAL
ハルサイジャーナル
『ニーベルングの指環』って、なに?
~4部作を知る6つのクエスチョン~
文・飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)
題名の「 ニーベルングの指環」って、どんな指環?
ライン川の河底で「ラインの乙女」たちが守っていた黄金で作られたのが、この指環。ただの指環ではありません。この指環を持つ者は無限の富と権力を手に入れることができるのです。ステキな指環なので、見ているだけで、どんどん欲しくなってきます。
ただし、ラインの黄金から指環を作れるのは愛を断念した者だけ。世界を征服したいのなら、愛はあきらめましょう。
長いオペラだって聞いたけど、どれくらい長いの?
現在オペラのレパートリーとして定着している作品のなかでは、文句なしにナンバーワンの長さを誇ります。
『ニーベルングの指環』は《ラインの黄金》[試聴] 《ワルキューレ》[試聴] 《ジークフリート》[試聴]《神々の黄昏》 [試聴] の4部作で構成されます。ぜんぶ合計すると、休憩を含めずに15時間くらいでしょうか。
4部作のそれぞれも長いのですが、唯一、最初の《ラインの黄金》だけは短めで、2時間半ほどで終わります。あっという間ですね。
悲劇?それとも喜劇?ステキなロマンスはあるの?
『ニーベルングの指環』は悲劇や喜劇というよりも、神話と呼ぶのがふさわしいでしょう。舞台は神々がいて、人間がいて、巨人族がいて、小人族がいるという神話の世界。そのなかで「指環」を巡るストーリーが展開されます。 ロマンスは登場します。愛はこの大作の重要なテーマ。親子の愛、兄妹の愛、男女の愛。さまざまな愛が描かれます。
だれでも知ってる名曲は登場する?
2作目の《ワルキューレ》に登場する、勇壮な「ワルキューレの騎行」[試聴] がよく知られています。
この曲はかつて映画「地獄の黙示録」で効果的に使用されて、一世を風靡しました。ワルキューレとは天馬に乗って戦場を駆け巡る半神の戦乙女たちのこと。「地獄の黙示録」では、ヘリコプター部隊がヴェトナムの村を急襲する場面で、この曲が流れます。軍用ヘリを天馬に見立てたところが秀逸でした。
台本を書いたのはだれ?
ワーグナー本人です。ワーグナーは音楽の才能にだけ恵まれた作曲家ではありません。生前には文筆の分野でも活躍していました。オペラ《リエンツィ》でオペラ作曲家としてブレイクする前は、パリの雑誌で連載小説「ベートーヴェン巡礼」を発表して評判を呼んだこともあるほど。ワーグナーは音楽と舞踊と詩の総合を理想として、総合芸術作品である「楽劇」というアイディアを提唱しました。楽劇『ニーベルングの指環』はそんなワーグナーの理想から生まれました。
ネタバレしてもいいから、ラストシーンを教えて!
全4部作なので、最後のシーンにたどり着くのはずいぶん先ですが、今のうちに結末をネタバレしておきますと、神々の世界は滅亡します。というか、最終作が《神々の黄昏》ですから、タイトルですでにネタバレしていますね。この四部作は神代の終焉を描いているのです。