JOURNAL

リッカルド・ムーティ イタリア・オペラ・アカデミー in 東京 vol.2《マクベス》

アーティスト・インタビュー ~城 宏憲(テノール)

 リッカルド・ムーティが指導、指揮するイタリア・オペラ・アカデミー in 東京 vol.2《マクベス》に、マルコム役で出演するテノールの城宏憲さん。2日後の本番へ向けての最後のリハーサルのあと、アカデミーを通しての体験や公演に向けての意気込みをうかがいました。

城 宏憲(テノール)

ここまでムーティのレッスン、リハーサルを体験していかがですか?

 僕はイタリア留学の経験もあって、自分なりの「イタリア観」も形としてあったのですが、マエストロ・ムーティと一緒に作品を作り上げる中で、その景色が鮮明になりました。大理石の建造物のような、イタリアの音楽、ヴェルディの骨格を植えつけていただいた。その一部になれている喜びを感じます。
 ぜひ受け取って帰りたいのは、マエストロが、まるでヴェルディ本人のように噛み砕いて教えてくれた楽譜の意図。歌手への厳しい要求を、ヴェルディは本当に細かく書き記しています。その小さなピースをモザイク画のようにはめ込んでいって、初めて大きな壁画になるのだということがよくわかりました。

これから夏にかけて、新国立劇場の《ドン・カルロ》(5月)、東京二期会の《レクエイム》(8月)と、ヴェルディ作品への出演が続きます。

 運がいいなと思ったのは、今回マエストロの口から、「ここは《レクイエム》と同じ」「ここは《ドン・カルロ》でも同じようにやっているんだ」というたとえをたくさん聞けたことです。とくに《マクベス》の第4幕冒頭の「虐げられた祖国よ!」の合唱。死を悼む人々の神への祈り、イタリアの宗教観が、そうした後期の作品にもつながっているように思えます。
 それを表現するのに、あのピアニッシモがあるんだなと思います。今回も、みんながマエストロの棒に集中して、ただの小さな音でない、エネルギーの高いピアニッシモが出る。愛する人の死を悼む涙のような重みがある。こういう時代だからこそ、そういう悲しみに寄り添った音楽に惹かれました。今、あの合唱がずっと頭の中に流れているんです。宝物になりました。《ドン・カルロ》ではパオロ・カリニャーニ、《レクエイム》ではダニエーレ・ルスティオーニというイタリアの指揮者たちのヴェルディと対峙しなければなりませんが、財布の中にマエストロ・ムーティ・カードというギフトを入れてもらった気がしています。
 マエストロの尊くも厳しいピアニッシモの要求。あれがあるから解放があると思います。《ドン・カルロ》では題名役のカバーも担当しているのですが、ドン・カルロ役にもperdendosiとかmorendoとか、「消えるように」という指示がいっぱい書いてあるんです。マエストロのピアニッシモを体験すると、すぐにそれを研究したくなって、リハーサルのあと、じつは楽屋で《ドン・カルロ》をさらっていました(笑)。マエストロはそういう欲求も生み出してくれますね。

ムーティの指揮する2公演と、受講生の指揮する「若い音楽家による《マクベス》」。3日間連続での出演になります。意気込みを聞かせてください。

 ヴェルディは、初演のマクダフ役のテノールの力が十分でなかったために、彼を支える役割の第二テノールとしてマルコムを加えたそうで、二人に同じパートを歌わせたりしています。物語的にも、マクダフとともに主役マクベスを倒す役割。今回、急遽プリモテノールの重責を担うことになった芹澤佳通くんのマクダフを支えて、打倒マクベスのために一緒に剣を抜く感じで3日間戦い抜きたいと思います!

ありがとうございました。

photos : ©飯田耕治




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