JOURNAL
ハルサイジャーナル
イアン・ペイジ(指揮)インタビュー

©︎Ben Ealovega
ハイドン晩年の大作オラトリオ《四季》が、タレク・ナズミ、クリスティーナ・ランツハーマー、マウロ・ペーターという世界で活躍する3人の歌手、東京都交響楽団と東京オペラシンガーズによって演奏される。指揮をするのは本邦初登場となるイアン・ペイジである。ペイジは特にモーツァルトをはじめとした古典派作品の演奏に長けた指揮者で、自身が創設したモーツァルティスツというピリオド・アンサンブルとは既に多くの録音を発表して世界中から評価されている。初来日を前にペイジに話を聞いた。
◼︎世俗と宗教という分割を超えた作品
日本での公演は今回が初めてです。仕事でもプライベートでもこれまで日本を訪れたことがなく、このプロジェクトをとても楽しみにしています。オーケストラ、合唱、そしてソリストたちも、今回が初めてご一緒する方々です。
日本では宗教音楽とそうでない音楽が区別して考えられていると聞きましたが、わたしはその2つにそれほど大きな違いを感じていません。数日前にロンドンでハイドンの交響曲を2曲指揮しましたが、いずれも最後は神を讃えるように終わりましたし、宗教音楽からの引用もあります。当時の聴衆は、引用されたその旋律が何であり、どのような意味を持つのかを当然分かっていました。そうした前提のもとでハイドンは作曲していたのです。
ハイドンの音楽には、世俗的な側面と同時に宗教的な側面が強くあります。
《四季》もまさにそうした作品で、人生の最後に取り組んだ大作として、彼が訴えたかったもののすべてが書き込まれています。フーガが多く登場し、神を讃える場面もあるという点では、モーツァルト最晩年の歌劇《魔笛》にも通じるものがありますし、《天地創造》にも匹敵する規模と性格を持っています。《天地創造》が天主のために書かれたとすれば、《四季》は人々のために書かれた作品であり、モーツァルトの音楽ともその点で共通しています。
◼︎多様性とユーモア —— 《四季》の魅力とは
この作品の魅力は非常に多様です。聴衆がどこに興味を持つかはさまざまで、民謡的でシンプルなメロディがあり、ぱっと聴いただけで口笛で吹けるような親しみやすさもあれば、巨大で複雑な合唱もあります。ユーモアも豊かで、オーケストラがカエルや鳥の鳴き声を模倣する場面もありますし、秋の狩の場面や酒を飲む歌では、酔ってうまく歌えない様子を音楽的に表現するなど、面白い仕掛けが随所に見られます。同時に、心に深く染み入るような美しい音楽もあり、大きなオーケストラと合唱によって非常に色彩豊かな世界が広がります。
また、《四季》は後の音楽にも影響を与えています。たとえばベートーヴェンの交響曲第6番《田園》です。《四季》が当時ウィーンで成功を収めていたこともあり、そこから着想を得て交響曲という形で書かれたと考えられます。ホルンの使い方や、羊飼いが朝の準備をするような場面、調性の選び方などにも共通点があり、ベートーヴェンはこの作品を強く意識していたと思います。

二本のホルンにスフォルツァンドが付けられている箇所
◼︎スコアに疑問を投げかける
さて、わたしの仕事で重要なのは、スコアを読み込むことです。そこに書かれている記号や指示を正確に読むことはもちろんですが、それ以上に大切なのは、それらがなぜ書かれたのかを考えることです。その際の大きな手がかりになるのが歌詞です。たとえば時計の音が鳴る場面で、二本のホルンにスフォルツァンドが付けられています。このスフォルツァンドを単なる強いアタックとしてではなく、時計の模倣だと理解することで、これをどのように演奏すべきかが見えてきます。ハイドンは音楽によって歌詞、すなわちその内容を描いているのです。
こうした作業を続けていくと、楽譜に書かれた「おたまじゃくし」が、実際に生きた「音」へと変わっていきます。わたしも他の指揮者や学者と同じように歴史的な情報に基づく演奏には関心がありますが、わたしにとっての喜びとは、楽譜が「音」として生き生きと立ち上がっていくことにあります。その意味では、古楽器を使うかモダン楽器を使うかは本質的な問題ではありません。重要なのは、なぜその音楽がそのように書かれたのかを理解することです。
「そこそこ良い演奏」と「すごく良い演奏」は異なります。「すごく良い演奏」とは、ひとつのアリア、あるいはひとつのページに対して何百もの問いを投げかけることから生まれます。その答えはひとつではなく、さまざまな可能性があり、その結果としてユニークな演奏が生まれます。同じ演奏は二度と現れません。だからこそ生の演奏に魅力を感じるのです。音楽が再生されるのではなく、その場で生まれていると感じられること、それを実現するのは容易ではありませんが、わたしは常に目指していますし、聴き手にもそれを感じてもらえたら嬉しいです。それこそが、音楽づくりですから。
関連公演
東京春祭 合唱の芸術シリーズ vol.14
ハイドン《四季》
日時・会場
2026年4月12日 [日] 14:00開演(13:00開場)
東京文化会館 大ホール
出演
指揮:イアン・ペイジ※
シモン(バス):タレク・ナズミ
ハンネ(ソプラノ):クリスティーナ・ランツハーマー
ルーカス(テノール):マウロ・ペーター
管弦楽:東京都交響楽団
合唱:東京オペラシンガーズ
合唱指揮:西口彰浩
※当初指揮を予定しておりましたアイヴァー・ボルトンは、都合により出演ができなくなりました。代わりまして、イアン・ペイジが指揮を務めます。詳しくはこちら。
曲目
ハイドン:オラトリオ《四季》Hob.XXI:3
料金
S:¥17,500 A:¥15,000 B:¥13,000 C:¥11,000
D:¥9,000 E:¥7,000 U-25:¥3,000 ネット席:¥1,500
