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ふじみダイアリー 今日のハルサイ事務局

外国人出演者の入国──コロナ禍の来日実現まで(1/3)

舞い落ちる桜がはかなく幻想的な上野。東京・春・音楽祭も中盤です。のこり期間の公演を充実した内容でお贈りできるよう、今できることに全力で取り組んでまいります。どうかご声援ください! 「ふじみダイアリー」では、ハルサイにまつわるさまざまな話題をピックアップしてお伝えしています。

 すでに公式サイトで発表させていただいたとおり、リッカルド・ムーティの出演するイタリア・オペラ・アカデミー関連公演(4月9日~)と、シュテファン・ショルテスを指揮者に迎えるモーツァルト《レクイエム》(4月11日)を、なんとか開催できる運びとなりました。ムーティら海外の出演者の入国が「特段の事情」と認められ、来日の見通しが立ったためです。


 昨年末に、海外からの入国が全面的に停止となった時点では、じつは私たちもそれほど深刻には受け止めていませんでした。漠然と、春が来て、ハルサイが開幕するまでには解除されるだろうと思っていたのです。

 それが、「これはどうやら楽観していてはダメだな」と焦り始めたのは、当初2月7日までとされていた緊急事態宣言の延長が発表された頃からです。今後の入国見通しについて外務省に問い合わせたところ、文化関係はまず文化庁に相談してくれというので、さっそく文化庁に聞いてみました。

 もちろんこの時点で、国は一切の入国を認めないという姿勢が基本でしたが、すでに私たち以外の音楽関連団体からも問い合わせが来ているとのこと。どんな人たちを何人ぐらい入国させたいのか提出するようにと指示され、全期間に出演予定の約40人のリストを出しました。2月下旬のことです。

 私たちとしては、特定の出演者に絞って申請したわけではなく、来日予定の海外勢全員を同じように扱ってもらうことが前提でした。そして私たちの希望は最初から、自分たちだけに便宜を図ってもらうことではありませんでした。現状で演奏家など音楽関連の入国許諾についてルールやガイドラインがないのなら、これを機にぜひ道筋をつけてほしいとお願いしました。この頃すでに、サッカーや野球など、スポーツ界では外国人選手が入国して2週間の隔離中であるという報道もいくつか出ていましたから、文化・芸術分野でもぜひ同様の措置を認めてほしいのです。もちろん、文化庁にとっても前例がないなかでの作業で、指針作りも簡単ではないだろうとは思っていました。

 

 しかしその後なんの進展もなく、今どのように審査されているのか、私たちはどうすればいいのかもわかりません。担当してくれた文化庁の方に何度問い合わせても、現在関係省庁との連絡中であるとの一点張りで、埒が明きません。

 しかも、東京を含む1都3県の緊急事態宣言が再延長された頃から、雲行きがさらに怪しくなっているのをひしひしと感じました。「全員は無理。もっと人数を減らせないか」「結論を出す前に時間切れになるかもしれない」といった趣旨の、悲観的なニュアンスの返答が多くなってきたのです。


 開幕は迫ってきます。入国が認められた場合でも、2週間の自主隔離を計算に入れてスケジュールを組んでいましたから、ビザの発行に要する日数などを考えると、公演日の3週間前をデッドラインとして決断しなければなりません。それでさえ、チケットの発売がさらにぎりぎりになり、お客さまにもご迷惑をおかけすることになります。オペラ公演の場合、長期間のリハーサルも必要です。

 最初に、バイロイトから来日するはずだったカタリーナ・ワーグナーら「子どものためのワーグナー」の演出チームの入国を断念しました。カタリーナが、リモート演出という次善の策に同意してくれたこともあり、入国者数を減らすためにも苦渋の決断だったのです。しかし3月3日以降、さらにいくつかの公演を段階的に中止し、3月11日にはマレク・ヤノフスキの指揮する《パルジファル》の開催も、泣く泣く断念せざるを得ませんでした。しかしここまでの過程で、はっきり「入国不可」という判断が下されたのではなく、まだ暗中模索状態。私たちからすれば結論が出ないままの時間切れだったわけです。

 この時点で、ムーティのイタリア・オペラ・アカデミーの4月9日の《マクベス》作品解説や、翌日からのマスタークラスは、たとえ入国できても隔離期間に重なることが予想されたため、宿泊施設からインターネット中継してリモートで行なうことでマエストロにも了解を得ていました。隔離期間が明けたあとに、なんとか《マクベス》とオーケストラ・コンサートのリハーサル&本番を組み込めればよいと考えることにしたのです。


 ようやく進展があったのは、3月半ばでした。文化庁に状況を問い合わせるとやっと、3月19日(金)には何らかを知らせられる見込みという、初めて前向きと捉えられる返答をもらえたのです。緊急事態宣言の解除が濃厚になっていた頃ですから、少し空気が変わったのかもしれません。

 ところが。その3月19日、文化庁からの連絡は私たちの期待を大きく裏切るものでした。てっきり、すでにリストを提出していた出演者に対しての入国の可否を知らせてくれるとばかり思っていたのですが、届いた知らせは、「関係省庁に申請するので、協議依頼を提出せよ」というものだったのです。えっ、これから審査開始!?

 しかしここで文句を言っている時間はありません。4月15日初日のプッチーニ・シリーズ《ラ・ボエーム》に間に合うかどうか、ぎりぎりのタイミングでした。歌手やそのエージェントたちへの返事を、3月21日まで引き延ばしていたのです。週末に大急ぎで書類を作成して文化庁へ提出しました。しかし案の定、提出したからといって、すんなり通るわけではなかったのです。

(つづく)

 
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