シューベルト：弦楽三重奏曲 第1番
　シューベルトの2つの弦楽三重奏曲はいずれも変ロ長調で書かれ、第2番のほうは完成を見たが、今回演奏される第1番は、シューベルトが第1楽章を書き終えたところで作曲を中断したため、未完のまま残された（なお、第2楽章は39小節のみの断片が存在する）。
　第1楽章は、快活な雰囲気の第１主題に、伸びやかな第２主題が続く。展開部は一転して、もの悲しい旋律が現れるが、徐々に光を求めるかのように高揚していく。再現部は主題を旋律的・和声的にやや変形し、書かれるはずであった第2楽章以降を予感させつつ、短くあっさりと終結する。

モーツァルト：ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 第2番
　1783年作の本曲は3楽章構成。ザルツブルク大司教から作品を依頼されたミヒャエル・ハイドン（ヨーゼフ・ハイドンの弟）が病床にあったため、モーツァルトがゴーストライターとして作曲したとされる。ヴィオラを愛奏したモーツァルトは、当該パートを単なる伴奏に留めず、楽器の特性を存分に活かした内容に仕上げ、本曲に不朽の価値をもたらした。
　「第1楽章 Adagio – Allegro」は、ゆったりした序奏から始まり、ヴァイオリンとヴィオラが対等に掛け合うソナタ形式。「第2楽章 Andante Cantabile」は、優美に歌う旋律が特徴的な緩徐楽章で、深い情感を表現する。「第3楽章 Thema. Andante grazioso」は、穏やかな主題と6つの変奏からなり、最後は急速なコーダで華やかに締めくくる。

シューベルト：弦楽五重奏曲
　1828年夏に書かれた本作は、同年11月の作曲者の死により最後の室内楽曲となった。シューベルト唯一の弦楽五重奏曲であり（モーツァルトに倣ったヴァイオリン2、ヴィオラ2、チェロ1という編成とは異なる）ヴァイオリン2、ヴィオラ1、チェロ2という編成を採用することで、低音域の充実が図られている。また、各楽章は室内楽としては大規模なうえに、様々な要素が盛り込まれており、本作にかけるシューベルトの並々ならぬ意欲が感じられる。
　長大な第1楽章のアレグロは古典的なソナタ形式で、提示部の抒情的な主題と展開部の悲しみを帯びた主題がドラマティックな和声のもと推移する。第2楽章のアダージョでは、ホ長調の息の長い旋律が繰り返されたのち、突如、慟哭するようなヘ短調の旋律が出現し、不安定に転調するが、徐々に静けさを取り戻す。この楽章は瞑想的な曲想ゆえに人気が高く、映像作品などにしばしば用いられる。第3楽章は、バイタリティーあふれるスケルツォと、緩やかなテンポで奏される内省的なトリオの対比が印象的。第4楽章のアレグレットは自由なソナタ形式。牧歌的で優美な2つの主題がやや不規則に現れるが、終盤に向けて徐々にテンポを増し、エネルギッシュに曲を閉じる。シューベルトならではの謹直な音楽性とロマンティックな気分が交錯する本作は、瑞々しい感性に満ち、聴く者を見果てぬ夢へと誘うかのようである。