1948年、ショスタコーヴィチは社会主義リアリズム路線に反するとしてジダーノフ批判を受け、モスクワ音楽院の教授職を解任される。翌49年に書かれた本作は、初めて楽曲に作曲者の想いや葛藤が込められた作品となったが、試演の際、否定的な反応があったため、初演されたのはスターリンの死後、1953年末であった。全4楽章からなり、第1楽章アレグレットは小ロンド形式。低弦の持続音にのせて東洋的な主題が2つのヴァイオリンで示される。第2楽章アンダンティーノは三部形式。抒情的な旋律に作曲者の深い想いが込められた美しい楽章。第3楽章アレグレットはロンド形式。チェロがリズミカルな第一主題を奏し、やがて東洋的な第二主題、ファンファーレのような第三主題と、3つの主題を組み合わせて最後はヴィオラのハ音が残ってそのまま間断なく最終楽章へ続く。ソナタ形式の第4楽章はピチカートの伴奏にのせたヴィオラの序奏に始まり、ユダヤ色濃厚な第一主題の旋律が決然と奏でられ、第二主題は少し和らいだ嘆息のようなモチーフ。悲劇的な感情が高まっていくように盛り上がるが、最後は静寂が訪れて消えるように曲を閉じる。

　ベートーヴェン弦楽四重奏団は、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲の初演に多大な貢献を果たしたロシアのカルテット。本曲は、その初期メンバーであるヴィオラ奏者ボリソフスキーが重病により脱退したため、彼に捧げるために1970年に作曲された。主役を務めるのがヴィオラであるのはそのためである。単一楽章で、基本的にはヴィオラと3楽器との対話となっている。

　1964年に「弦楽四重奏曲 第9番」と並行して作曲され、友人で作曲家のミェチスワフ・ヴァインベルクに捧げられた。全4楽章構成で、第1楽章アンダンテは展開部を欠くソナチネ形式。最後まで弱奏で進むのも特徴的。第2楽章アレグレット・フリオーソはロンド形式。一転して迫力ある鋭い強さを持った楽章となり、耳を覆わんばかりの最強奏へと至る。第3楽章アダージョは8つの変奏によるパッサカリアで、深い悲しみを湛えた旋律が印象的。主題と対位旋律はチェロと第1ヴァイオリンが受け持つ。間断なくロンド・ソナタ形式の最終楽章アレグレットに続き、ヴィオラがどこかおどけたような第一主題を刻む。やがて4度下行する第二主題、3楽器が斉奏するなかに現われる歌謡的な第三主題が組み合わさって進み、次第に高揚して第一主題と前楽章のパッサカリア主題が合わさった頂点を築く。その後は各主題が再現され、最後は第一主題の合間を縫って冒頭楽章主題が回想され、静かに曲を閉じる。