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對馬哲男(ヴァイオリン)、日橋辰朗(ホルン)、加藤洋之(ピアノ)

アーティスト・インタビュー ~ 日橋辰朗(ホルン)

アーティスト・インタビュー ~ 日橋辰朗(ホルン)

 日本を代表するホルンの若き名手、読売日本交響楽団首席奏者の日橋辰朗(にっぱし・たつお)さん。東京・春・音楽祭でもおなじみの顔だが、2022年はホルン・トリオとして<ハルサイ>に登場する。オーケストラの達人にとって、室内楽の妙味とは――。

文・出水奈美(毎日新聞)

日橋辰朗(ホルン)/©︎読売日本交響楽団

 「室内楽が大好き。オーケストラよりも人数が少ない分、自由度も高く、さまざまな表情を見せることもできます。金管楽器ならではの輝かしい音色から、弦楽器やピアノと溶け合う豊かな音色まで、ホルンの魅力を存分に感じ取っていただきたいですね」。
 朴訥とした語り口の端々から、ホルン愛があふれてくる。今回は楽団の同僚・ヴァイオリンの對馬哲男さん、室内楽を知り尽くしたピアノの加藤洋之さんと組んで、ブラームス『ホルン三重奏曲 変ホ長調』をプログラムの柱に据えた。
 「ホルンを吹いていて良かったと思わせてくれる作曲家がブラームス。一番好きな作曲家かもしれません。交響曲の1番から4番まで、どの曲を吹いてもよくこんなメロディを書いてくれたなあと感じますね」。ブラームスを語る言葉の勢いは、どんどん加速していく。
 とりわけ『ホルン三重奏曲』は学生の頃から何度も演奏してきた大切な曲。オーケストラの経験を重ねるうちに、作品に対する思いも変化しているという。
 「ブラームスのシンフォニーでのホルンの使い方を知ってから、テンポ感も息の使い方も変わりました。学生の時は表面的なものしか見えていなかった。ヴァイオリンとの絡み方も響きの作り方も、オーケストラで培った経験が生かせるようになりました」

 もともと野球少年だったが、中学の吹奏楽部でホルンに出合った。音楽の先生になりたくて東京音楽大学に進んだが、そこで大きな挫折を体験した。
 「奏法が悪いのは分かっていて、音大入学後、一からアンブシュア(演奏時の口の形や筋肉の使い方)を直しました。先生には急激に伸びるか、一生吹けなくなるかどっちかだぞと言われて。朝7時半から夜9時までひたすら練習したけど、半年間音が出なかった。つらかったですね。でも、ある日ひらめいたんです。筋肉の使い方はこうしたらいいんだと。苦しかったけれど、僕には必要な時間でした」
 才能は一気に開花した。在学中に参加した小澤征爾音楽塾でオーケストラの楽しさに目覚め、卒業の翌年には日本音楽コンクールで1位を得た。日本フィルハーモニー交響楽団を経て読響へ。現在は母校で後進の指導にも励んでいる。

 休日の息抜きは草野球。共演する對馬さんは同じ野球チームの仲間でもある。そして、對馬さんの東京藝大時代の恩師が、ピアノの加藤さん。以前この3人のコンサートで相性の良さを実感し、再び共演する機会を得た。
 プログラムは、ブラームスのほかワーグナー、ヒンデミット、コルンゴルトなどドイツ音楽三昧。美しい音色と鮮やかなテクニックで、まだ見ぬホルンの魅力を発見したい。




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