JOURNAL

ハルサイ的「世界街歩き」

バルセロナ

プラハ、ウィーン、バイロイト 、ラヴェンナ…。
2005年に「東京のオペラの森」としてスタートし、2009年より「東京・春・音楽祭」として新たな幕開けをした音楽祭。
その16年の歩みの中で縁の生まれた、世界の街の数々をご紹介していきます。さあ、一緒に世界旅行へ。

スペイン カタルーニャ州 州都バルセロナ 首都マドリードに次ぐ第2の都市

 前回のパリ編の中で、「東京オペラの森」時代に上演したワーグナー《タンホイザー》がパリ・オペラ座でも上演・・・という話が出てきましたが、このプロダクションは実はもう一つ、リセウ歌劇場でも上演されました。

 リセウ歌劇場って?・・・ここはオペラ好きの方だとよくご存じと思うのですが、スペインのバルセロナにある名劇場です。ちょうど20世紀末頃でしょうか?とても先進的で活発な上演を行うオペラハウスとして赤マル急上昇したのは。この《タンホイザー》のように、名立たるオペラハウスとの共同制作や独自のプロダクションで名歌手、名指揮者、名演出家とともに素晴らしい上演を連発しています。これはやはりバルセロナという都市の文化度の高さと連動しているのでしょうか?

 (ちなみに、最近この劇場がニュースで話題になったのを覚えていらっしゃいますでしょうか?コロナ禍で公演を無観客で行い、客席にはお客さんの代わりに観葉植物を置いた・・・という。ユーモアというかアイロニーというか、こういったエピソードにも文化度を感じるのです)

 というわけで、今回行ってみる街はバルセロナ。
 バルセロナというと、そのリセウ歌劇場やサッカーのFCバルセロナなども有名ですが、まずイメージするのは、なんといってもアントニオ・ガウディの建築ですよね。言わずと知れた未完成の巨大な聖堂、サグラダ・ファミリア。この永遠に工事を続けているかと思われた聖堂もいよいよ2026年に完成予定(・・・のハズだったのですが、最近のニュースではまた延長との話も)。それからグエル公園にカサ・ミラ等々。ガウディが手掛けたものが街中にあふれています。


パブロ・カザルス(1876─1973)

 それからウッディ・アレンの監督作品で『それでも恋するバルセロナ』という映画があります(2008年公開/ペネロペ・クルス、スカーレット・ヨハンソンらが出演)。全編にわたりスパニッシュ・ギターの音楽にのせ、様々な愛のかたちが軽妙に描かれ、その画面の中ではスペインのエキゾチックな街や人の空気とともに、ガウディの建築物のエキセントリックでアーティスティックな印象が際立っていました。だから・・・というわけではありませんが、そもそもスペインの中でもカタルーニャ州の州都であるバルセロナは元々文化的な都市なのです。バスク地方などもそうですが、ご存じの通り、カタルーニャも独立運動が盛んなところで、それはスペイン中央政府のあるマドリードにいるスペイン人とは違う民族ゆえ。カタルーニャはもちろんスペインの中のひとつの地方ではありますが、独自に考えた方がいいわけです。
(他にもそうした国は結構あります。余談ですが、堀田善衛さんと司馬遼太郎さん、宮崎駿さんの対談した『時代の風音』(朝日文庫)という本の中で、司馬さんが「ネーションとステートは違う。ステート(国)というのは人間の、いわば頭で作った法によって作られたものだ」というようなことを言っていました)

 話がそれました・・・。そうした独自の文化をもつ場所でガウディが活躍したのは納得ですし、あのピカソ美術館もあります。1992年には今も記憶が鮮明なオリンピックも開かれました。音楽家でいえばカタルーニャ地方出身、20世紀最高の偉大なチェリストのひとり、パブロ・カザルスもバルセロナに住んでいました。彼は1971年、94歳のときにカタルーニャ民謡である「鳥の歌」を国連で弾き、平和を訴えたことでも有名です。またカザルスはここで、それまで埋もれていたJ.S.バッハの《無伴奏チェロ組曲》の楽譜を見つけ、後に蘇演をしたのです。そのことで、この組曲は今や全世界のチェリストのレパートリーにおける「根っこ」となりました。

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