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作曲家ヒンデミットを知る、4つのツボ

作曲家ヒンデミットを知る、4つのツボ

文・小室敬幸(音楽ライター)

 いささかマニアックな存在だと思われることもあるが、代表作である交響曲《画家マティス》を筆頭に、オーケストラが時おりプログラミングしているパウル・ヒンデミットは、クラシック音楽のリスナーにとってそこそこ馴染みのある存在である。とはいえ、この作曲家のことをどのくらい知っているかといえば、かなり個人差があるだろう。必ず押さえておきたいポイントから意外と知られていないトリビアまで、多彩な魅力を紹介したい。

①ヴィオラ
 オーケストラで使われるような楽器はおおよそ弾きこなせたと言われているヒンデミットだが、そのなかで彼が最も愛したのがヴィオラだった。そのため、この楽器を独奏として扱った作品が多く、ヴィオラ奏者にとって必須のレパートリーになっている。それらの作品をヒンデミット自身が演奏した録音も残っているが、楽譜通りのきっちりした演奏ではなく、まるで即興的にその作品が生まれていくかのような自由闊達な印象を受けるのが面白い。ヒンデミットに堅物的なイメージをお持ちの方ほど驚かされるであろう。

パウル・ヒンデミット

②指揮者
 もちろん作曲家、奏者としてだけでなく指揮者としても活躍していた。実はウィーン・フィルハーモニー管弦楽団が1956年に初めて来日し、日本公演を行った際、指揮者として帯同したのがヒンデミットだった。得意としていたのは自作だけでなく、モーツァルトからブラームスに至る保守本流なレパートリーに加え、ブルックナーも得意としていた。オススメしたいのは、1958年にシュトゥットガルト放送交響楽団を指揮したブルックナーの交響曲第7番。速いテンポでありながら濃密な味付けで、現代のブルックナー像とは異なった、かえって新鮮な体験ができるはず。

③吹奏楽
 前述したように様々な楽器を弾きこなしたヒンデミット。主だった管楽器のために演奏しがいのあるソナタを作曲していることもあり、管楽器奏者(特に金管)にとってはメジャーな存在だ。更には吹奏楽のために作曲された「交響曲 変ロ調」は、この分野における貴重な古典的作品として評価が高く、ここぞという機会に取り上げられるレパートリーになっている。

グレン・グールド

④あのミュージシャンもヒンデミット好き!?
 ヒンデミットを高く評価していた著名ミュージシャンの代表格といえば、ピアニストのグレン・グールドである。ピアノ・ソナタ全3曲をスタジオ録音――特に第3番は得意レパートリーとして何度となく演奏。更に驚くのは金管楽器とピアノのためのソナタを5曲すべて録音しているほどなのだ。
 もうひとり、意外な人物の名前を挙げておこう。それはジャズの歴史にビバップという新たなスタイルをもたらしたチャーリー・パーカーである。「ビバップはジャズの私生児ではない」とビバップの独自性を主張していた1949年のインタビューでパーカーは、ビバップと同じ方向ではないと留保しつつ、強い興味をもっている音楽としてヒンデミットの小室内音楽 op.24-2を挙げていたのだ。実際、この作品を聴いてみると第2曲「ワルツ」冒頭でスウィング風のリズムを感じられたり、第5曲の中盤ではビッグバンドを想起させるような決めフレーズが登場したりと、実はジャズとの親和性も高い。



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