JOURNAL

ふじみダイアリー 今日のハルサイ事務局

作曲家・加藤昌則さんに聞きました。
知れば知るほど面白いブリテンの世界。レアなオペラ《ノアの洪水》の予告編も

桜の季節があっという間に駆け抜けていった上野公園。今は鮮やかな新緑に包まれて初夏のような清々しさです。中盤戦の東京・春・音楽祭。のこり期間の公演を充実した内容でお贈りできるよう、今できることに全力で取り組んでまいります。どうかご声援ください! 「ふじみダイアリー」では、ハルサイにまつわるさまざまな話題をピックアップしてお伝えしています。

 4月11日(日)に東京藝術大学奏楽堂(大学構内)でお聴きいただくのは「ベンジャミン・ブリテンの世界~20世紀英国を生きた、才知溢れる作曲家の肖像」。好評シリーズの4回目は、昨年中止になった公演の曲目をそのままシフトして仕切り直す予定でした。ところがコロナ禍により、プログラムのメインだったオペラ《ノアの洪水》に、いまだ児童合唱団が出演することができません。やむなく、内容を変更して「番外編」として開催することになりました。企画構成の作曲家・加藤昌則さんと、公演に出演するバリトン歌手の宮本益光さんにお話を聞きました。

 二人は芸大の学生時代からの親友同士。宮本さんは、出演する予定だったシンフォニーヒルズ少年少女合唱団の音楽監督でもあります。

加藤「《ノアの洪水》は児童合唱がメインのちょっと変わったオペラ。児童合唱というか、教会で初演されていて、その信者の子どもたちのために書かれた作品です。シンフォニーヒルズ少年少女合唱団は、僕も合唱曲を何曲も演奏してもらって関わりもあったし、指導している宮本さんが、出演歌手としてもこのオペラをよく理解しているので、とても心強い。今年こそは、と期待していたので残念です」

宮本「一番かわいそうなのは子どもたちで、もともと去年の本番のために、2019年の夏合宿からずっと準備しているんです。小4の子もいるので、英語の読みから必死に勉強しました。
 メンバーは1年ごとに新しくなりますから、延期になると、舞台に立つ予定だった子が卒団して出られない。指導する側としては、最年長の主力がいなくなるわけで、来年はまた作り直し。簡単ではありません」

加藤「でも、このオペラは教会の会衆が参加する場面もあるので、そこを卒団した子たちが客席で歌うとか、何か考えたいと思っています」

 《ノアの洪水》の上演自体は来年に先送りとなりますが、今年のプログラムには、実演を交えてこの作品を解説するレクチャーコーナーを設けました。いわば次回予告です。

 

加藤「このシリーズでは、いつもレクチャー的にお話をしてから作品を聴いてもらっています。そのほうがブリテンの面白味をわかってもらえると思うんですね。今回は、そのレクチャーに特化した時間を作っちゃえということです。
 楽器の使い方とか、アマチュアをどう参加させるかとか、ブリテンがいろんな工夫をしているんです。たとえば洪水の場面で、マグカップを使って水の音を出したり。そういうのを見ていただくのも面白いかなと思っています」

 このシリーズを通して、加藤さんは作曲家として、自分とブリテンに共通する志向を感じているのだそう。

 

加藤「僕は、こだわっているということではないのですが、調性というものがいつも自分の表現の中のどこかにあって、必要を感じれば調性で書く。ブリテンも調性的な志向をずっと捨てなかった人です。でもそれがけっして古臭くなく、その時代その時代の新しい発想と結びついていることに、すごく関心を持っているんです。
 作曲家として、僕自身が研究してブリテンに入っていくことを紹介することで、多くの人に、僕と同じ視点、同じ理解でブリテンを味わってもらえるのではないかと思っています」

 一方、宮本さんは歌手としての視点から、ブリテンを「音で風景を描く作曲家」だと語ります。

宮本「私は、芝居を音で表すことのできる作曲家の頂点がモーツァルトだと思っているのですが、それに並ぶのがブリテンです。距離感や時間軸を描くことのできる作曲家。言葉の持つ、心象ではなく風景が見える。絵が見えるんですね」

加藤「思い出した! そういえば、宮本さんが出演した東京室内歌劇場の《ヴェニスに死す》を見に行って、それがブリテンを面白いなと思ったきっかけだったんです。オケが船の汽笛を描写したりするのですが、それが、リアルなんだけどじつにファンタジックで。譜面を見てみたいなと思ったのが始まりでした。
 そのときに彼が、明確なメロディがあるわけでもないし、捉えどころがなくて、どうやって勉強したらいいのか難しいという話をしていて。だから僕は、わかりにくい音楽なのかと思って聴きに行ったんです。でも、たしかに耳に残るアリアなどがあるわけではないんだけど、心地悪くないんですよ。なんだろう、不思議だなと思って。その体験が大きかったかもしれないですね」

 なるほど。どうやらこの「ベンジャミン・ブリテンの世界」の源泉はそこにありそうです。宮本さんは今回がシリーズ初登場ですが、じつは最初から深く関わっていたのですね。

 今回は、これまでにも増してヴァラエティに富んだプログラムです。リコーダー三重奏、オルガン独奏、宮本さんと波多野睦美さんによる歌曲、世にも珍しいティンパニとピアノの二重奏、そして弦楽オーケストラで演奏されることが多い《シンプル・シンフォニー》を弦楽五重奏で。ブリテンのさまざまな顔をご覧いただけるはず。どうぞお楽しみください!

 


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