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2025/09/17

リッカルド・ムーティ指揮 オペラ『ドン・ジョヴァンニ』2026年公演開催記者会見

2026年4月〜5月、東京文化会館が長期休館に入る直前のタイミングで、リッカルド・ムーティ指揮による『ドン・ジョヴァンニ』が上演されることになりました。9月10日、「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京」で来日中のマエストロを迎えて記者会見が行われました。連日の過密なスケジュールを調整しての開催ではありましたが、マエストロは疲れた様子も見せることはなく、主催のNBS専務理事 髙橋典夫氏と、東京・春・音楽祭実行委員会委員長 鈴木幸一と並んだ壇上で、身振り手振りも交えて自身の思いをたっぷりと語りました。

会見はまず、NBSの髙橋氏より、今回の開催がNBSと東京・春・音楽祭、そして来年創刊150周年を迎える日本経済新聞社の3者がタッグを組んで主催するものであること、東京文化会館の改修工事期間となる前に、マエストロ・ムーティ指揮の舞台付きオペラを実現したいと3年ほど前から計画してきたことなど、公演の概要が発表されました。また、日本でのムーティの舞台付きオペラは、2016年以来の実現となることに加え、今回上演される『ドン・ジョヴァンニ』は、ウィーン国立歌劇場日本公演2008年『コジ・ファン・トゥッテ』と2016年『フィガロの結婚』に連なるダ・ポンテ三部作の完結をみることとなるとも。

続いて鈴木実行委員長からは、音楽祭開催におけるマエストロとの長い関係のなかで、音楽祭での指揮はもとより、イタリア・オペラ・アカデミーの成果を讃え、「私もゼロからヴェルディを教えられた」と語り、マエストロからは「ヴェルディ(好き)からワーグナー(好き)になる人は多いけど、逆は珍しい」と言われたエピソードが紹介されました。マエストロが指揮するモーツァルトは、これまで交響曲での印象はあるが、『ドン・ジョヴァンニ』でもきっと良い意味での驚きを感じさせてくれるのでは、と期待を表しました。

「私はダ・ポンテ三部作はイタリア・オペラだと思っています」

さて、いよいよマエストロ・ムーティが語ります。
「『ドン・ジョヴァンニ』の話の前に、私の日本への愛のことを」と話し始め、1975年のウィーン・フィルとの初来日以来、ミラノ・スカラ座、ウィーン国立歌劇場、フィラデルフィア管、シカゴ響など、毎回日本で指揮をすることを楽しみにしていたのは、お客さまがとても集中して聴いてくれることを身をもって体験しているからだと明かします。

そして話はモーツァルトへ。
「私とモーツァルトとの関係は、私とヴェルディとの関係同様に深いものがあります。ミラノ・スカラ座音楽監督のときに6作、ザルツブルクでは『コジ・ファン・トゥッテ』、『ドン・ジョヴァンニ』、『皇帝ティートの慈悲』、『魔笛』、ほかにもたくさんの交響曲を振っています。しかし、だからといって私がモーツァルトのスペシャリストというわけではありません。私の人生の多くの部分が、モーツァルトの作品を勉強する時間に捧げられたということなのです」
ここで言われた"勉強する"という言葉はとても深い意味をもっています。一つの作品に向けるというだけにはとどまらない、音楽に向き合うとはどういうことか、ということを含めたものであることが、続いて語られるなかで浮かび上がります。
「私はダ・ポンテ三部作はイタリア・オペラだと思っています。ご存じの通りモーツァルトは完璧にイタリア語を理解し、話すこともできました*。作品を書いているときに詩を深く理解しながら、フレーズやイタリア語の言葉そのものに対する深い知識をもって書いたということが大切なのです。音楽が先にあって、そこに言葉をのせるということではないのです。特にレチタティーヴォ。彼が書いたものは、イタリア人が話すのと同じテンポでできているのです」 「モーツァルトがイタリアをどれほど愛していたかは、彼がイタリア旅行中に父にあてた手紙のなかで、ナポリ派の偉大な音楽家たちに会えることを楽しみだと言っていることや、『ナポリでの1回の演奏会は、ドイツでの200回の演奏会に値する!』と書いていることからもわかります。『コジ・ファン・トゥッテ』のなかに"女も15歳になれば....."というアリアがあります。ここでは本当に話しかけるように音楽ができている。言葉を理解することがどれだけ大事かをあらわしています」
*モーツァルトはオーストリアのザルツブルク生まれ

『ドン・ジョヴァンニ』に思うこと

「『ドン・ジョヴァンニ』については、以前に偉大なキャストで録音をしたり、ザルツブルクではカラヤンが振った初演の後、彼に請われて再演を指揮しました。スカラ座のなかでも特別だと感じる素晴らしいプロダクションを演出したのがジョルジュ・ストレーレルで、彼はオペラ演出家としては神に近い存在だと思っています。
新しい『ドン・ジョヴァンニ』を、という話があったときに、娘のキアラはストレーレルの学校で学びましたし、私の音楽の世界のなかで育ってきましたから、彼女はぴったりだと考えました。そうしてトリノ(2022年)とパレルモのマッシモ(2023年)で成功をおさめました。そしてそれが今回の日本で、という話になったとき私はすぐに日本のオケと合唱でやろう、と提案しました」

「ダ・ポンテ三部作はいずれもドラマ・ジョコーゾ(dramma giocoso)で、これは悲喜劇を意味します。そしてそこには必ず「苦味」が入っている。「苦味」というのは最後がネガティヴであるということです。だから、最後にみんなが大団円で騒いで終わるという演出はちがうのではないかと、ずっと思っていました。ドン・ジョヴァンニは道化役ではなく、悪を表現している人物だと思います。でも、最後に彼が地獄に落ちていく前には暗い光で照らされている。彼がいなくなってしまうと、残されたみんなはどうしたらいいかわからなくなるのです。また、このオペラは悲劇的なd-moll(ニ短調)の音楽で始まりますがニ短調は「レクイエム」と同じ調性です。さまざまな凝った演出が行われることがありますが、『コジ』も『フィガロ』も、最後にはネガティヴな捉え方、メッセージが作品には込められているのです。こういうところを読み解くところが重要です。決して喜劇だけではない、鬱というか、かなしみが内包されているのだということを。
モーツァルトとダ・ポンテという二人は、外面的には自由人的な軽さがイメージされるかもしれませんが、とても深いところでは厳しさをもっていました。ダ・ポンテは、たしかに若い頃には女性にかかわるスキャンダルなどがありましたが、1700年代というのは特別な時代でした。結局ダ・ポンテは最後にアメリカに渡り、コロンビア大学でイタリア文学とイタリア語の重要性を教えました。彼の人生が、ただの自由人ではなかったということがわかります」。


『ドン・ジョヴァンニ』という作品、モーツァルトとダ・ポンテ、そしてこの二人による三部作...... マエストロ・ムーティの探究は無限に深いと感じさせますが、
「こうしてしゃべることと、実際にそれを実現できるかはちがうので、私が公演で指揮することをみて、私がどうそれを実現したか......判断してみてほしい」とマエストロ。
予定時間を越えてもなお、手を上げた記者を自ら指し、質問者の質疑に答えるマエストロが「最後にサンタ・アゴスティーノの言葉で締めくくります。"歌う者、音楽をする者はみな、愛することを知っている"」
と静かに語り、会見は終了となりました。


W.A.モーツァルト作曲
オペラ『ドン・ジョヴァンニ』

公演日
2026年
4月26日(日) 14:00 東京文化会館
4月29日(水・祝) 14:00  東京文化会館
5月1日(金) 14:00 東京文化会館

指揮:リッカルド・ムーティ
演出:キアラ・ムーティ

[予定される主な出演者]
ドン・ジョヴァンニ:ルカ・ミケレッティ
ドンナ・アンナ:マリア・グラツィア・スキアーヴォ
ドンナ・エルヴィーラ:マリアンジェラ・シチリア
ドン・オッターヴィオ:ジョヴァンニ・サラ
レポレッロ:アレッサンドロ・ルオンゴ
ツェルリーナ:フランチェスカ・ディ・サウロ
マゼット:レオン・コーシャヴィッチ
騎士長:ヴィットリオ・デ・カンポ

管弦楽:東京春祭オーケストラ
合唱:東京オペラシンガーズ

入場料 [税込]
S=¥59,000 A=¥46,000  B=¥36,000  C=¥28,000  D=¥21,000 E=¥15,000
サポーターシート=¥109,000(寄付金付きのS席)
U39シート=¥13,000 U29シート=¥10,000

主催:公益財団法人日本舞台芸術振興会 / 東京・春・音楽祭実行委員会 / 日本経済新聞社

※公演概要の詳細は2025年9月下旬に発表予定です。
※表記の内容は2025年9月現在の予定です。今後、出演団体の事情等により変更になる場合がございます。あらかじめご了承ください。



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